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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十三話 旧友、二人 (下)
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皇紀五百六十八年 四月二十九日 午前第十一刻 
馬堂家上屋敷 第三書斎 駒城家御育預 新城直衛


喫煙室に戻り、昼食を平らげると部屋の主は長椅子にゆったりと座り、声も緩ませる。
「お前、どうせ暇だろ?ゆっくりしていけ」
先の書斎での問答の時とはまた違った印象を与える声だった。
 ――こいつは声の使い分けが巧みだ。
北領でも巧みに部下たちを宥め、叱咤している姿を見ているが、そうした能力は銃後でも存分に発揮できるものであると新城は知悉している、
「――暇なのは確かだな。今は三百名程度しか居ない名ばかり大隊の管理だけだ。
笹嶋中佐の手配で派遣された部隊は既に原隊へ復帰し、補充は遅れ、俺がやる事はほとんどない」
新城は生え抜きの生還者達から見繕った者たちを下士官に昇進させ、新兵の訓練に充てていた。
米山、妹尾もそれぞれ昇進し、猪口特務曹長とともに新城を補佐している。
「他の北領鎮台の部隊が優先されている。それに剣虎兵はまだ数が少ないからな、思ったようにはいかない」

「専門性の強い砲兵みたいに転科が困難な訳ではないだろう。転科は泥縄とはいかなくとも融通はどうにか利きそうなものだが」
砲兵将校の言い草に生え抜きの剣虎兵将校である新城は僅かに顔を顰めた。
――色々と言いたい事はあるが――この手の話はもめる物だ。深く言及するのは別の機会にしよう。
恐らく、他兵科の将校間では幾度も行われている決まり文句を飲み込み、言葉を継ぐ。
「――北領での戦果を受けて剣虎兵部隊の増強が進み需要が急造している。
駒州でも剣虎兵二個大隊を増強し、それに、先月からもう一つ鉄虎大隊の新編にとりかかっている。義兄上――駒州鎮台司令長官閣下も剣虎兵の戦例研究を片手に俺に何度か実戦での運用法の洗い直しをしている」

「――随分と剣虎兵も価値が高まったものだな。
それならば尚更に第十一大隊はおざなりにできるような部隊ではないだろうに。
第十一大隊は今どこの管轄だ?龍州か?それとも護州かな?」

「兵部省直属――要するに宙ぶらりんのままだ」
 新城の言葉を聞いて顎を掻きながら豊久も不機嫌に唸る。
「そうなのか――何とか駒州鎮台に組み込めれば良いのだがいくら虎城が近いとはいえ、剣虎兵を三個大隊も保有するのならばそれも難しいだろうな。若殿様に露骨に頼るわけにも行かないわけだ。
お前が近衛行きで、俺も剣虎兵部隊は本職じゃない。――こうなると後任に任せるしかないな」

「お前でもそうなるか――俺が近衛でどう扱われるか次第だな。
近衛に剣虎兵部隊が存在するとは聞いたことがない、衆兵隊司令部で飼い殺しされるのは好みではないな」
 豊久は新城の言葉に頷き、また顎を掻く。
「どうだろうな、殿下がお前を有効利用するのならば、看板部隊を持たせて、衆兵の弱兵
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