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猫がいたので
第一章

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                猫がいたので
 宮城拓也は黒髪をボブにした元気な少年である、はっきりした顔立ちでありやや小柄だが運動神経はよくサッカーに夢中である。
 その彼がサッカークラブの練習の帰りにきな粉色のところに茶色の寅模様が入った毛で顔の下半分に腹、四本の足の腹の側が白い毛である子猫を拾ってきた。つぶらな黒い大きな瞳で毛は顎の辺りが長い。その猫を身体の前に抱いて拓也は母の菜桜子にこう言った。
「お母さん、野良猫らしいけれど」
「拾ってきたの」
「サッカーの練習中ずっとグラウンドにいてね」
 それでというのだ。
「気になって声かけたら懐いて」
「お家まで連れて来たの」
「飼っていいかな」
「うちは今ペットいないしね」
 菜桜子はここで自分の過去を思い出した、茶色の長い髪の毛を後ろで束ねて団子にしている、切れ長の大きな優しい目ですらりとした長身である。菜桜子は自分が子供の頃実家で飼っていた猫、十五年生きて天寿を全うしたその白猫のシロの死んだ時を思い出してあの悲しい時を思い出した。だがそれでもだった。
 まだ仕事、建築現場の責任者の夫である正也が帰って来ていないが彼が猫好きで菜桜子の話を聞いてもそれでも出来たら飼いたいと言っていた彼のことも思い出してだった。
 お父さんもいいと言うしと息子に答えてだった。
 猫を飼うことにした、すると家から帰った夫は予想通り快諾してこの猫は家の猫になった、それでだった。
 猫は雌でしかも毛の色がきな粉色であったのできな子と名付けられた、きな子は拾って来た拓也それに夫で猫好きの正也一七〇程の背でがっしりした体格だが顔立ちは息子によく似て髪の毛の色も同じである彼が可愛がるだけでなく。
 過去のことがあっても基本的に猫は嫌いではない菜桜子も可愛がった、きな子は完全に家族の一員になった。
 拓也は学校やクラブではサッカーに夢中で家ではいつもきな子と一緒だった、そんな彼を見て夫は妻に言った。
「よかったな」
「きな子がうちに来てね」
「ああ、俺も幸せだけれどな」
 それでもというのだ。
「何といってもな」
「拓也にとってね」
「ああ、拓也は一人っ子だからな」 
 だからだというのだ。
「きな子が姉妹みたいになってくれてな」
「いつも一緒に遊んでね」
「それで楽しく過ごしているからな」
「本当にいいわね」
「そうだな」
「私はどうかって思ったけれど」
 菜桜子は自分のこともふと思い出して話した。
「けれどね」
「ああ、それでもな」
「ええ、拓也にとってはね」
 息子である彼にとってというのだ。
「凄くいいから」
「本当にきな子がうちに来てくれてよかったな」
「そうよね」
 妻は夫の言葉に笑顔で頷いた、そうしてだった。
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