赤黒の結界
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ラビットハウスの臨時休業は、翌朝には解除した。
ハルトの重症は気になるが、ずっと店を止めているわけにもいかない。平常業務として、可奈美は一通りの業務をこなしていた。店の清掃に始まり、買い足し、接客応対。仕事をしている間は、可奈美は何も考えずに済んだ。
「精が出ますね」
今日も来た青山ブルーマウンテンは、コーヒーを片手に微笑んでいた。
「今日、ハルト君はいないのですね?」
彼女に言葉をかけられるまで、可奈美はずっとひたすらにテーブルを拭いていた。脳がひたすらにテーブル磨きを命令していたので、不意の青山さんの声に「ふえっ」雑巾を落としてしまった。
「あ、ああ……ハルトさん?」
「何か心配事ですか?」
青山さんは、少しも原稿に手を付けないまま、コーヒーを啜った。彼女はそのまま可奈美へ言葉をつづる。
「いつもと比べて、可奈美さんの動きが早く見えます。とても平常だとは言えない御様子です。何かありましたか?」
「その……」
可奈美は口を割らず、あははと愛想笑いを浮かべた。しかし青山さんは特段にこりともせずに、じっと可奈美を見つめている。
「隠す必要はありませんよ。ココアさんやチノさんたちも、私は色んな相談相手になっているんです。信じられないかもしれませんが、私ここで相談教室だって開いたこともあるんですよ?」
「ほ、本当?」
少し信じられず、可奈美は思わず聞き返した。青山さんはこくりと頷き、
「はい。それで、少しはお役に立つと思います。どうか、お聞かせください」
「と言っても、私はただ昨日……怪我したハルトさんが少し気になるだけです」
「怪我ですか?」
青山さんの反応を見て、可奈美は心の中で口を噤んだ。彼女が体を乗り出しているところから、青山さんが好奇心をくすぐられたのは明白だった。
「何かあったのですか?」
「昨日の……ガス爆発で、怪我したんです」
昨夜、コウもスケと響と話している最中で取り決めたデマカセを口走る。チノやココアも騙した手口だが、青山さんは特に疑うこともなく納得した。
「ハルトさん、あの時見滝原公園にいたのですか? 災難でしたね」
「あの後、救急車もガス爆発で搬送する人が多かったみたいで、結局ラビットハウスで手当てすることになったんです」
「そうだったんですか……では、ハルトさんは?」
「上で寝てます」
可奈美は天井を指差した。青山さんは「ほあー」と頷いた。
「お見舞いに伺っても、よろしいですか?」
「ええっと……ん?」
答えようとした可奈美は、口を閉じる。
ガタガタガタ、と店の戸が音を立てていた。やがて、ドアノブがひねられ、何か赤い影が入ってきた。
「あれ? ガルちゃん?」
可奈美の手
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