二つの黒
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ない赤い液体が染みついている。
それは、自分が流した血。
同時に、それの原因となったものも、腹から突き出ていた。
「ナイフ……っ?」
ファントム退治や聖杯戦争。これまで何度も非日常の中で戦ってきたハルトが、日常の象徴であるナイフによって、膝を折った。
「どうして……変身が……?」
ハルトは、少女を見上げる。
夕日に照らされた彼女は、先ほどウィザードに押し付けた時計を見下ろしている。やがて、その時計から音声が流れた。
『ウィザード』と。
「ウィザード……?」
「これでいいの? モノクマ」
少女は、茂の方へ声をかける。運よく破壊を免れた緑の中から、三十センチくらいの人形らしきものが現れた。
左右が白と黒に分かれたクマ。白の部分は比較的可愛らしいクマのぬいぐるみらしいものだったが、黒側は、赤く鋭い眼が印刷されており、白側に対して、禍々しく思えた。
モノクマと呼ばれたそれは、少女の手にある時計を見上げて、口を抑えて肩を震わせた。
『ウププ。そう。それだよ、我妻由乃。それで君も、他のマスターと同様に戦う力を手に入れたんだよ』
モノクマ。彼は、そう頷いて高笑いを上げた。
「戦う力……? どういうことだ……?」
体を起こそうとしながら、ハルトは問いかける。モノクマは『んん〜』とハルトを見下ろし、
『ああ。君がウィザード? キュウべえとコエムシから聞いているよ。コロシアイをしないマスターなんだって?』
「……だったら……ゲフッ、なんだ?」
『ウププ。別に。それで、我妻由乃。その時計の上をポチっとやって』
由乃というらしき少女は、モノクマの言葉に従い、時計の頭部のスイッチを押した。
『ウィザード』
その音声とともに、腕時計を胸に迷わず叩き込んだ。
埋め込まれた箇所より、紫の光が迸る。
まるでウィザードの魔法陣と似たものが出現し、それが彼女を通過すると、そこにいたのは、
「……ウィザード……だと……?」
薄れゆく意識の中。
ハルトが最後に目にしたのは___
ローブはボロボロで、ベルトの手は骸骨で、後頭部には指輪のような銀が取り付けられてはいるが。
疑いもなく、ウィザードそのものだった。
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