第六十八話 戴冠
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次の目的地が決まったところで、物資の補充や情報の共有のためにも一度グランバニアに帰還する。
「タバサ、ルーラをお願い」
「はい、先生」
ほんの一瞬の浮遊感の後世界が暗転し、気付いた時に目の前にあったのは荒れ果てた塔ではなく懐かしのグランバニアの城だった。
ここ最近魔物の凶暴化などが深刻だけれど旅立った時と何一つ変わらない事に安心した。
「相変わらずタバサのルーラは上手ね」
今までは何気無しにポンポン使えてたからイマイチ実感が湧かなかったけれど、ルーラというのは失われた古代呪文の中でもかなり難易度の高い呪文に位置する。目的地までの距離や転移させる物の数などが色々と絡んでくるからだ。
しかしタバサは遠く離れたグランバニアまで、少なくない人数や荷物を寸分の位置の誤差もなく正確に転移させる事に成功している。
その事実がタバサの魔法の腕の高さを端的に証明していた。
「ありがとうございますっ」
嬉しさを隠しきれていなくて、はにかむタバサのその様子がとても可愛らしい。
「僕が大臣に報告してくるから皆先に休んでていいよ」
「おとうさんありがとう!」
「お先に失礼します」
双子が真っ先に城に駆け込んで、モンスター達が後に続く。
その後を歩きながら、私はアベルに話しかけた。
「私も一緒に行こうか?」
これまでの冒険はそれこそ一冊の本に纏められそうなほど長い。そんな報告を彼一人にさせるのは気が引ける。
「ありがとうミレイ」
アベルはそう言って微笑んだ後に、
「けど大丈夫だ。今まで王様らしい事は何一つ出来てないんだからそれぐらいやらなきゃな」
臣下を頼ってこその王様だと思うけど、これ以上は言っても聞きそうにない。
「わかった。じゃあお言葉に甘えて先に休ませてもらうわ。また後でね」
「ああ、また後で」
アベルは執務室の方へ向かい、私は自室に向かう。
久々の自室は以前よりも清潔だった。床には塵一つ落ちておらずベッドには皺一つも無い。
部屋の管理をしてくれたメイドに感謝しつつ、私は清潔な床に旅の汚れが付着した装備は衣服を脱ぎ捨てた。
そして箪笥から湯浴みの道具を一式取り出して、ローブを纏い浴場に向かう。この時間帯ならまだ開いているはず。
期待に胸を弾ませながら久々の浴槽に浸かった。熱い湯が凝り固まった身体中に染み渡る。
この幸せな感覚に身を委ねつつ、夕暮れに染まる窓を見つめながらこれまでについて考えた。
今まで私は『影響』を解決するために戦ってきた。そうする事で自分のおかしくなった運命を直し、元の世界に帰れるのだと信じてきたから。
だけど今まで戦ってきて長い年月を費やしても手がかりにすら私は掴めていないのに状況はどんどん進んでいる。
もしこのまま世界を救っても『影響』を解決できなかっ
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