第1部
アッサラーム〜イシス
眠らない町
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無意識に売り物を凝視していたのだろう。その店の店主が、細い串に焼きたての鶏肉を差した、見るからに食欲をそそられる食べ物を私に差し出してきた。
「お嬢ちゃん、そんなにお腹が空いてるならこの串焼き食べなよ」
「あっ、いや、そんなつもりじゃないんです。すいません」
けれど店主は一歩も引かず、今しがた金網に乗っていたもう一本の串焼きを取り上げ、
「あんたかわいいからサービスでもう一本つけてあげるよ。ほら、そこの彼氏と仲良く食べな」
そう言って、二本とも私に差し出してきた。
「いやあの、私たち別にそういうのではないんで……」
「いいからいいから。熱いうちに食べないと」
「……じゃあせっかくなんで買わせて頂きます」
結局食欲には勝てず、押しに負けてここは素直に一人分だけ支払うことにした。
「お前……少しは恥じらいってもんがないのか」
店主から串焼きを受け取ると、後ろにいたユウリが心底呆れたように言う。
いや、ロマリアでタダ同然まで値切ってたあなたに言われたくはないんですけど。
少しムッとした私は、串焼きを彼の目の前に見せながら、
「じゃあこれユウリにあげようとしたけど、どうしようかな」
と、意地悪く言ってみた。けれど興味がないとでも言うように、ユウリは私から視線をそらし、別の露店の品物を眺めている。
うーん、そう来るか。それなら、嫌でも興味を持ってもらおうか?
ふと閃いた私は、串焼きを隠すように持つと、彼に聞こえるように声を張り上げて言った。
「あっ、このお肉、食べたことのない味がする!!」
「は?」
思わずこちらを振り向くユウリ。そこへすかさず彼の口元に串焼きを持っていく。
「はい、ユウリ。あーん」
さすがのユウリも即座に対処出来なかったのだろう。私の言葉に素直に口を開けてしまったのが運の尽き。私は笑顔でその串焼きを彼の口に入れた。
「!?」
「あー、ごめん。やっぱりただの唐辛子だったよ」
あっはっはー、と嘘くさい笑いを見せた私は、動揺を隠せないユウリの顔を確認したあと、心の中でガッツポーズをとった。
「どう? おいしい?」
一方、何が起きたのかわからないユウリは、鶏肉を口の中に入れながら、目を瞬かせている。すると、彼の顔が次第に紅潮していくではないか。
ん? もしかして唐辛子の量が多かったのかな?
予想外の反応に、戸惑う私。
「えと、あの、そんなに辛かった?」
顔を真っ赤にしながら口元を押さえる彼の姿を見て、私はしまったと思った。
辛いのが平気だと言っていたが、どのくらい平気かは人によって様々だ。おそらくユウリが耐えられ
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