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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十九話 虎の川を越え、城より出でて
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てている
 だが純粋に軍人としては当時の将校団においても「最新の戦争」についてだれよりも知悉している事は紛れもない事実だ。独立混成聯隊と呼びながら事実上の旅団規模の戦闘団を与えた理由はそれに尽きる。
 新城直衛との私的なつながりもあったが彼らが再び投入されることになったのは部隊とその指揮官に対する評価としても必然的な事であった。

「考えてみれば」「はい」
「彼らに直接すべてを託すのは初めてだ、あぁ彼らの能力は疑っていないよ、それでも、だ」
 支援を怠ってはいないか、彼らを気づかぬうちに避けられた破滅に送り出していないか、保胤の能吏としての本能と庇護者としての気質は平時では美徳であったが、今は彼の神経を責め立てている。
 益満はそれをよく承知していた。彼はそれを人として尊ぶことはできたが、参謀長として無用の自責にかまける指揮官を窘める事ができなかった。

「確認しますか?」
 自分で言い出しながら、何を言っているのだ、と内心、罵る。過剰な導術の使用を夜戦を控えた部隊に強要するなど愚か以外の何物でもない。

「いや、向こうから連絡がないのならいい。導術と兵を休ませてやれ」
 彼らが一番苦労をするからな、と保胤は呟いた。
 益満はひっそりと胸をなでおろした。

「閣下、六芒郭から報告があります」
 導術さん坊の御馬少佐が帳面にこまごまと書きつけながら導術室から出てきた。
「報告という事は大崩れはしていないのだな?」

「はい、相も変わらず酷い戦のようですが持ちこたえています。陸兵のみならず龍兵を分散させたことが大きいのだろう、とのことです」

「‥‥‥であるならば後は彼らがうまくやれるように支援するのが我々の仕事だな」

「ここまで来たのならばあとは彼らの仕事です、我々は為すべきことを」
 ”仕事”、鍬井戦務主任の言った言葉が益満の中で不吉に蠢いた。間違っているわけではない、保胤の気質を考えれば言葉選びとしても正しいはずなのだが――。
 ‥‥‥駒州軍は〈皇国〉軍の最精鋭である。彼らは良く訓練され、将兵の士気も高く、〈皇国〉軍の長所である兵站機構も陸運の州として育った兵下士官を軍官僚団が管理運営し、適格に稼働していた。
 しかし駒城保胤の認識していた軍司令官としての戦時体制の構築は太平の世で育った軍官僚としての発想の及ぶ範疇であった事は卓抜した軍官僚として前線指揮官の訴えに常に耳を傾けたのだとしても――その行動を律するのは保胤個人の強固な自律心によるものであり――駒州軍司令官としては些か以上に暗い雲を漂わせていた。

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