第一章
[2]次話
風狸
死なない妖怪がいるという。
その妖怪の話を聞いて和歌山藩の藩士末崎悠一は言った。
「いや、いないだろ」
「幾ら何でもか」
「不死身の妖怪なんてか」
「いないか」
「妖怪でもな」
末崎は強い声で言った、面長で色白の精悍かつ知的な顔立ちだ、黒髪を奇麗に髷で整えていてすらりとしたスタイルをしていて着物がよく似合う。眉毛の形もいい。
「死ぬ筈だ」
「絶対にか」
「死なない筈がないか」
「やっぱり」
「この世にあるものは何時かはだ」
絶対にという口調でだった、末崎は友人達に茶室で話した。
「滅びるしだ」
「死ぬか」
「そうだっていうんだな」
「何があっても」
「それでも」
「そうだ、死なない生きものはな」
それこそというのだ。
「いるものか」
「そうか、ではな」
「お主それを確かめてみるか」
「そうするか」
「無論、風狸であるな」
末崎はその妖怪の名前も話した。
「その風狸を捕えてな」
「そしてか」
「そのうえで確かめるか」
「そうしようぞ」
こう言ってだった。
末崎は早速山に入ってそのうえで木の上にいる狸に似た生きものを見付けた、それを見て彼に同行した高野山の僧である築海が言った。
「あれが風狸です」
「狸というが」
その姿を見てだった、末崎はどうかという顔で述べた。
「猿に似ておるな」
「それは確かに」
築海も述べた、二十代でまだ若いが高野山ではその学識で有名な僧である。小柄だが利発そうな顔立ちだ。
「似ていますな」
「そうであるな」
「はい、ですが書によりますと」
築海は末崎に今度は風狸自体の話をした。
「木の上から風の動きを読み取り」
「そうしてか」
「空をムササビの様に飛ぶとか」
「そうなのか」
「はい、そして山の一つや二つは軽くです」
「飛んでしまうおか」
「そう書いておりまする」
自身が読んだ書にはというのだ。
「そうありました」
「左様か」
「そしてです」
築海はさらに話した。
「今は昼ですが基本夜に動き」
「そこは狸と同じじゃな」
「そして蜘蛛や香木の香を喰らうとか」
「そうなのか」
「まあ蜘蛛でなくとも虫ですな」
そうしたものをというのだ。
「喰らう様です」
「そうであるか、では虫を餌にしてな」
そうしてとだ、末崎は築海に話した。
「そうしてじゃ」
「捕えますか」
「そして実際に何をしても死なぬのかをな」
「確かめまするか」
「そうしようぞ」
こう言ってだった。
末崎はすぐにその場にいた虫を捕まえて空に投げた、すると風狸はすぐに木の上から飛んで虫を口で咥えんとしたが。
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