第四章
[8]前話
「それでもな」
「実際に喰らうよりもですな」
「先に成敗出来てじゃ」
柴田がそうしてというのだ。
「よかったわ」
「ですな、それがしも民の無事を守れてです」
「よかったのう」
「政はやはりです」
「うむ、民を守らねばな」
それこそとだ、信長も答えた。
「何にもならぬわ」
「左様ですな」
「わしがいつも心掛けておることの一つじゃ」
信長は善政で知られている、その為彼がまだうつけと呼ばれていた頃から民達には心から慕われていた。それは彼の心掛けもあってなのだ。
「それはな」
「それであやかしの成敗もですな」
「お主に行ってもらったが」
信長は柴田に笑って話した。
「よくやってくれた、それでじゃが」
「何でしょうか」
「褒美じゃ、受け取れ」
信長は懐からあるものを出した、それは見事な茶器だった。
その茶器を柴田に差し出してそうして話した。
「受け取るのじゃ」
「これはよい茶器ですな」
「そうじゃな、よい働きをしてくれたからな」
それでというのだ。
「これを渡そう」
「有り難きこと、それでは」
「お主も茶がわかってきた様じゃしな」
「ははは、これまでは武辺でしたが」
それがとだ。柴田は信長に豪快に笑って応えた。
「それがしも呉下の阿蒙ではいたくないので」
「だからじゃな」
「茶の道もです」
「学んでじゃな」
「わかってきたとです」
「そうじゃな、ではな」
「有り難く」
柴田は信長から畏まって茶器を受けた、そうしてその茶器で茶を行いこの時の話を時折家中の者達に話した。
織田家の中でも武辺として知られた柴田勝家の逸話である、かかれ柴田と言われる様にとかく攻めが上手で戦の強さで今も知られている、しかしその彼にもこうした知恵があった。猛将の意外な一面を語った話と言えるであろうか。
釣瓶落とし 完
2019・10・13
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