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水の国の王は転生者
第六十一話 大森林の先
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レオノールの言う通り、エレオノールを帰国させるように、とカトレアからの手紙と一緒にラ・ヴァリエール公爵からの手紙が届けられたからだ。

 ……手紙には、

『新世界へ行って間もなく一年になりますし、新たに婚約者も見繕いました。どうか、エレオノールがトリステインへ帰るように殿下のお力を御貸し下さい』

 と、書かれてあった。

「そうなのですね?」

「はい、その通りです。ヴァリエール公爵から義姉上を帰す様、手紙をもらいました」

「やっぱり……! 殿下には申し訳なく思いますが、私帰りませんわ」

「なら聞きますが、どういった事をすれば帰る気になるの?」

「それは……」

 今度はエレオノールが考える素振りをした。

「……思えば、一年前のベルギカ号で、義姉上に帰るように説得すれば、公爵達も……」

「殿下は悪くありませんわ。むしろ理解を示していただいて感謝しています」

 マクシミリアンがいくら言い聞かせてもエレオノールは首を縦に振らなかった。
 すると、蚊帳の外だったティファニアがポツリと呟いた。

「二人ともケンカしてるの?」

「いやティファニア、それはケンカじゃないぞ。そうだろ義姉上?」

「そうですとも、ちょっと私が我が侭を言って殿下を困らせただけです」

「わがまま? わがまま言っちゃダメだよ」

 小さなティファニアに諭されるエレオノール。

「こんな小さな娘に……」

 とエレオノールはヘコんでしまった。

「義姉上。自立がしたいのか、それとも名声が欲しいのか。その辺りをしっかり定めておいてくれないと、僕としても公爵に報告のしようがありません」

「自立ですか、そうですわね……私は家を出れば『何か』に成れると思い、ミス・シュヴルーズの元に転がり込んだのですが。殿下、私は自立したのでしょうか? 『何か』に成れたのでしょうか?」

「……うーん」

 エレオノールの問いに、マクシミリアンは明確な答えを持っていなかった。

「何をもって自立というのかは、僕には分かりませんが、親元から離れれば自立したと定義する者も居ます。『何か』に成った、というのは、僕は義姉上ではないので答えが分かりません」

「そうですわね、雲を掴むような質問でしたわ」

「気になさらずに、それくらいの悩みなら誰でも持っていますよ」

「……ですが、これ以上殿下に迷惑を掛けるわけにはいきませんわ。一週間後にミス・シュヴルーズに付き添って北部の地質調査に出発する予定ですが、その調査が終われば、真新しい発見が有ろうと無かろうと殿下言うとおりに帰国します」

「それを聞いて安心しました」

 エレオノールから色よい返事がもらえて、マクシミリアンは胸を撫で下ろした。

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