第六十話 ハルケギニア大寒波
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「ほんま、王太子妃様は女神様やぁ〜」
民衆の反応も良く、中でも涙を流してありがたがる者も居た。
濛々と鍋から湯気を立ち、にこやかに麦粥を渡すカトレアの隣にはミシェルの姿があった。彼女も以前、難民問題で表彰されたことがあり、黙って見ている事が出来ず炊き出しに参加していた。
炊き出しに並ぶ民衆の列はカトレアの他にも幾つかの列を作っていたが、圧倒的にカトレアの列が多かった。
「やっぱり、カトレア様によそって貰うのが良いのね」
「貴族様、オラにも一杯……」
「ああ、すまない」
ミシェルは、麦粥をよそい少年に手渡した。
「ありがとうごぜえます、貴族様」
「ところで、そこの仁」
「へ? オラの事?」
「そうだ。一つ聞いたいんだが、どうしてカトレア様の列でなく私の列に入ったの?」
「うん、それは……」
「うんうん?」
「オラ、王太子妃様よりも貴族様の方が好きなんで。へぇ……」
「え? 好き? 私が? 何で?」
「前に、故郷を捨てた俺に良くして貰ったんで……」
ミシェルは、以前の難民騒動の事を思い出した。
「ああ、あの時の……そうか、えへへ」
『しどろもどろ』になったミシェル。
その顔はにやけ、身体もクネクネさせた。
「よし、大盛りにしてやろう」
「あっ、ありがとうございます」
ミシェルは少年から、麦粥の入った椀を引ったくり、更に多く盛り付けた。
「ねえ、ミシェル?」
「何ですかカトレア様?」
「何か良い事あったの?」
「え? 分かります? いやあ、私も捨てたものじゃないな、と。ええ、えへへへ」
上機嫌のミシェルに、カトレアは首を傾げながらも『良かったわね』と、ミシェルの手を握って喜びを分かち合った。
……
人々の列も一段落し、カトレアは一休みしようかと思っていた。
多めに用意していた麦粥の鍋はその殆どが空になり、新宮殿のメイド達が片付けていた。
次々と片付けられる鍋とは別に、濛々と湯気が上がっているのに、誰も手を付けない鍋があった。
「どうして、あの鍋のものには誰も手をつけないの?」
カトレアは、片付け作業をしていたメイドを呼び止め聞いてみた。
「あの鍋には王太子殿下から送られた、ジャガイモという作物を蒸かしたものが入っているのですが、見た目が悪いのか、それとも見たことがない性なのか、誰も手を付けたがらないです」
「あら、そうなの。あ、ありがとう作業に戻って良いわ」
「失礼します」
メイドは、空の鍋を持って新宮殿へ戻っていった。
「カトレア様、どうされたのですか?」
休憩に入ろうとしたミシェルが聞いてきた。
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