中編
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真田は美紀とともに、自分たちの部屋に入った。
なぜか無性に懐かしく感じた。自分が毎日暮らしている部屋がなぜこんなに懐かしいのか。
何かがおかしいと思っているのだが、その何かがわからないままどんどん流されている気がする。
窓際に真田の机。イスの背に掛けられた黒いランドセル。机の脇の2段ベット。上が真田の場所で、下が美紀だ。
美紀のベッドの枕元に、薬局で処方された風邪薬の袋が置いてある事に気が付いた。
「風邪をひいてるのか? ・・・そうだ、あの時、美紀は風邪をひいて寝込んでいたんだ。」
記憶を探っていた真田が頭に浮かんだことを言葉にすると、
「あのときって?」と美紀が訊き返した。
それに答えようとしたが、頭に浮かんだことは、かき消すようにどこかへ行ってしまった。
「・・・何を言おうとしたのかな。・・・思い出せない。」
「へんなの。」
気づくと、いつの間にか美紀はパジャマ姿で布団に横たわっていた。
顔が赤くほてっていて、目が潤んでいる。ひどくダルそうだ。
また違和感。美紀は最初からこんな様子だったろうか・・・?
「具合、悪そうだな・・。」
真田の問いかけに、小さな声で「うん」と美紀が答える。
「ともかく薬を飲んで、安静にしているのが一番だ。何か食べられそうか?」
「食欲ない。」
美紀は辛そうに鼻をすすった。
「ゼリーとかプリンとか、口当たりのいいものでも買ってこようか。」
美紀は小さくうなずいた。
「早く元気になって『はがくれ丼』を食べたい。」
「はがくれ丼?」
巌戸台駅前のラーメン屋「はがくれ」の裏メニューだ。
しかし、なぜ美紀がそんなものを知っているのか?
また頭の片隅で何かがおかしいという赤ランプが激しく点滅する。しかしどうしても頭が働かない。
「元気になったら一緒に食べに行こう。」
真田はただそう答えることしかできなかった。
「約束だよ。」と美紀が小さな声で言った。
『彼女』が巌戸台駅を出たところで、ばったり荒垣と出会った。
ラーメン屋の「はがくれ」に入ろうとしていたらしい。
「今帰りか・・・」
荒垣が声をかけてきた。
「はい。荒垣さんは夕食ですか。」
「まあ、なんか作るような気分でもないしな。気晴らしに外で食うことにした。」
『彼女』はちょっと考えてから、「私も一緒に食べて行っちゃおうかな。」と言った。
「・・・おう。まあ、好きにしな。」
荒垣は少し戸惑ったようにぶっきらぼうに言うと、店の引き戸を開けた。
店は7割程度の混み具合だった。
ちょうど空いたテーブルに向かい合わせに座ると、荒垣は特製ラーメンを、『彼女』は好物の「はがくれ丼」を注文した。
「こんな時によくそんな重たいもんを食えるな。」
荒垣が呆れたように言うと、「大変な時だからこそ、しっかり食べなきゃ力が出ませ
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