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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
閑話2 エル・ファシルにて その2
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の行政官や、もとから軍自体に反発心のある治安警察、階級の低いヤンに対して若干反感を抱いている熟練下士官達よりも、その答えには説得力があり且つ現実的だった。

「中尉さん。恐らく民間人の皆さんは脱出計画について、いつ出発かということに一番関心を抱いていると思います」
 フレデリカはヘイゼルの大きな瞳を、ヤンに向けてはっきりと言った。
「帝国軍は相当な戦力でこっちに向かってきているんですよね? 包囲されちゃうより前に脱出したほうがいいんじゃないかなと、思うんですけど」
「時期を待っているんだ。正直私にもわからないし、いつ出発するとも言い切れない」
 わかってて質問するんだから、この子の肝っ玉は相当太いんだなぁ、と妙なことにヤンは感心しつつ応えた。
「だけどそう遠くないのは確かだよ」
「軍事機密なんですか?」
「うん。まぁそうだね。機密というよりは、条件が整うのを待っている。条件が整えば、すぐにでも出発するつもりなんだ」

 手ごわいジャーナリストだなぁと笑みを浮かべると、フレデリカも笑顔で応える。なるほど年の少し離れた妹がいるというのは、こういう気持ちになるんだなとヤンは胸の内で理解した。だがそれもガラスを振動させるほどの爆音で一気に吹き飛んだ。ヤンのフレデリカの、そしてロビーにいる官民全ての視線が滑走路の向こうに見える軍用宇宙港の方へと視線を向けられる。そこには白い雲を引きながらまっしぐらに天空へと飛び立っていくシャトルの群れがあった。そのシャトルの胴体には、赤白青の横分割三色旗に五角形の軍章が書き込まれている。

「あれは……軍のシャトル……」
 少なくない衝撃にフレデリカの声は震えていた。すぐに一人の少尉がヤンの下に駆け寄り、リンチと指揮下将兵の脱出を告げる。その声が聞こえたのか、ヤンはフレデリカの視線が自分に向けられたことを、目ではなく肌で感じ取った。予想よりも若干早いが、それだけリンチ司令官も焦っていたということだろう。ヤンはフレデリカの僅かに震える細い肩を二度叩き、自分でもできうる限りの陽気さを含めて言った。
「これで条件が整ったよ。じゃあ出発しようか、フレデリカ」

 その後、血相を変えて集まってきた民間人協力者の一団に、ヤンは司令官を囮にしたことを告げ、速やかに手荷物のみ持って、割り振られた船への乗船を急がせた。その後も行政官集団や治安警察が次々とヤンを責め立てたが、それに対してもヤンは平然と対応した。それゆえか、乗船は予想よりもはるかにスムーズに進行し、六時間後には脱出船団への乗船が終了し、ヤンは旗艦に指定したサンタクルス・ライン社の七〇〇万トン級大型貨客船シースター・サファイアの艦橋に臨時の司令部を設けるに至った。船団総数七六六隻。エル・ファシル星系に投錨していた全ての民間船舶のうち、恒星間航行能力と与圧・与
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