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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第44話 ブラックバート その3
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状態のウエスカが展開する微弱な中和磁場では被害を防ぎきれない。最悪、一瞬であの世逝き。俺は一度死んだ身ではあるが、他の乗員はそうではない。制御された空調下で出る汗もないのに襟元のスカーフを緩めたり、コンソールに備え付けられた衝撃防御用の把手を何度も触ったりしている。

「……距離三光秒を切りました。測距をキロ単位に変更します」
「敵艦、速度を落としました。等減速運動の模様」
「敵艦の砲門、光学で開放を確認」

「……大尉、五〇万キロで斉射三連して、標的をギリギリ外した場合の評価点は幾つだ?」
「この場合、標的は減速移動中ですが、こちらは機動後射撃になります。有効射程の半分以下ですから、当然減点対象です。標的との距離も換算して三五点くらいでしょうか」
「この状況下で訓練査閲ができるのだから、貴官の腹の座り具合は尋常ではないな。」

 カールセン中佐の呆れた声に、俺は何も応えず深呼吸した。七〇万キロ、六五万キロ、六〇万キロ……

「五〇万キロです!」
「錨(アンカーアウェイ)開放、機関始動、砲門開け!」

 重力錨の強制切り離しによりウエスカ全体に振動が伝わる。それと同時に艦全体が下方へ急加速したため、ほんの一瞬人工重力にズレが生じる。人間が認知できる間ではないが、体をブレさせるには十分だ。俺もカールセン中佐も体幹でそれを躱す。一方でメインスクリーンから見える星空は急速に変わっていくから可笑しな気分になる。

「狙点固定!」
「撃て!(ファイヤー)」

 スクリーンに六本の青白いビームが三回煌めく。その後、速やかに戦艦へ向けて艦首を翻す。急加速と高機動の繰り返しの後、観測機器を担当する測距オペレーターが巡航艦に砲撃が複数命中し、完全破壊に成功したと報告が上がる。一瞬、艦橋で歓声が上がるがそれも束の間。至近を八本のビームが通過する。運良く外れてくれたが、戦艦の全力射撃だ。当たればひとたまりもない。

 ウエスカは直ぐに中和磁場の出力を上げつつ、ミゲー七七号とユルグ六号との合流に向かう。タイミングを合わせてミゲー三四号とサルード一一五号が、後背防御の巡航艦へ攻撃を仕掛ける。これで数的優勢を確保したが、ブラックバート側は巡航艦を前に出し、こちら側へ突撃してきた。包囲される前に、数が多い方の戦力を少しでも減らして突破を試みるつもりだ。

「戦理にはかなっている。だが、そうはいかない」

 俺の独り言に気が付いたわけでもないが、巡航艦が有効射程に入る前には、ウエスカを中心とした平行横隊を完成させており、その全艦が戦艦に照準を合わせている。そしてカールセン中佐の手が振り下ろされた。
「撃て(ファイヤー)」
 気負うわけでもなく、やる気がないわけでもない。落ち着いた砲撃指示に、三艦合計一八本のビームが巡航艦を素通りし、戦
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