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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第43話 ブラックバート その2
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佐が画面の中で手を挙げて俺に質問を投げかける。挟撃戦となれば少佐の言う通り監視・保護に戦力は割けない。
「するしかありません。燃料を放出して航行動力機関を破壊してください。万が一、目が覚めて船を乗っ取られるのも迷惑ですし」
「それは下手したら遭難することになるが……まぁ、それも仕方ないか」
「ラフハー八八号はどうしますか? 接舷したままですとウエスカの戦闘能力を大きく損なうことになりますが……」
 副長の質問に、カールセン中佐の視線も当然のように俺に向けられる。この作戦の主立案者は俺だが、艦の指揮官は言うまでもなく中佐だ。下手なことを言ったら許さんぞという気配がする。

「このままです。ラフハー八八号がウエスカに乗っ取りを仕掛けたことは、ブラックバート本隊には既に伝わっています。通信妨害をかけられていることも承知しているでしょう」
「それで?」
「武装商船が攻撃されたことも承知しているとみれば、バーソンズ准将の思考として状況不利と見て逃走も視野に入るでしょう。ですが視界に入ったラフハー八八号を見捨てて逃走することはできません」
「彼が逃げないと確証を持って言えるか?」
「彼我の戦力を准将がはっきりと認識しているのであれば間違いなく……」

 戦艦一隻と巡航艦三隻とでは、戦力的にほぼ対等。巡航艦の主砲で戦艦のエネルギー中和磁場を打ち抜くのは容易ではないし、機動力以外、すなわち有効射程も砲門数も防御力も明らかに戦艦の方が上。相手が巡航艦クラスの大きさの『海賊船』であれば鎧袖一触だ。

 こちらが正規軍である可能性も考えてはいるだろう。その場合、自分達が出てきた方向……トリプラ星域管区に連絡が飛び厳重な警戒が敷かれると判断する。つまり自分は追い込まれた鼠になったと認識するわけだ。それでも引き返すことを選択するとしても、一度はこちらの跳躍宙点に出現して再度長距離跳躍を試みなければならない。咄嗟に無差別跳躍を行うこともできるだろうが、部下の生存を目的として海賊行為をする准将にそれはできない。

 そして彼の年齢も問題だ。計算で行けば今年で八〇歳になる。戦病死以外での平均寿命が一二〇歳のこの世界で、元気な八〇歳というのは普通だ。だが根拠地も戦えない部下や傷痍兵の住処も失い、逃走して新たに一から構築するにはやはり遅すぎる。彼あってのブラックバートであり、彼が仮に後継者を指名していたとしても、彼ほどのカリスマは得られないだろう。優秀な艦長……そう、カールセン中佐のような人物でもいない限り。

「確証を持って申し上げます」

 これは賭けだ。自分の命だけでなく、特務小戦隊全員の命が懸かっている。しかし分が悪い賭けではない。戦艦がブラックバートにいることを前提に、特務小戦隊は一点集中砲火とツーマンセル訓練をゲップが出るほどやってきたのだ。
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