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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第42話 ブラックバート その1
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訓練の時のような覇気がないのは確かだった。俺は備え付けのドリンクサーバーでホットコーヒーを二つ煎れ、一つをカールセン中佐の前に置いた。それを見て、カールセン中佐は小さく視線を俺に移した後、何も言わず一口啜った。

「ボロディン大尉、君は何故そこまで熱心に任務に取り組むことができる?」

 数分の沈黙の後にカールセン中佐は、呟くようにそう俺に問うた。つい最近、場所も相手も違うが、まったく同じ経験をしているだけに、今回は困惑しなかった。
「まったく同じ質問を、小官はケリム星系警備艦隊に在籍中、首席参謀だったエジリ大佐から受けたことがあります」
「そうか、エジリ大佐もか……大佐は確か二年前にケリム星系で逮捕されたのだったな」
 そういうとカールセン中佐は、会議室の天井をぼんやりとした眼差しで見上げながら言った。
「貴官が警備艦隊にいた頃、大佐にどういう感想を持ったかは知らないが、大佐が駆逐艦分隊の先任艦長だった時のことは今でも思い浮かぶ。第2次イゼルローン要塞攻略戦でたった五隻の小さな駆逐艦達が、敵の砲火を巧みに掻い潜って、中性子ミサイルの一斉射撃を戦艦に叩き込んだのだ」
「……そうですか」

 それだけの猛将が、ケリムで醒めてしまったのか。士官学校優位の不文律という壁にぶち当たり、同様な立場で苦難にあるバーソンズ元准将へ『夢』を託したのだろうか。俺が一抹の不安を覚えてカールセン中佐を見つめると、珍しく、というか面識を持ってから初めてカールセン中佐の笑みを見た。

「そう心配するな、大尉。儂はちゃんとブラックバートと戦う。裏切ったりはせんよ……でなければ、バーソンズ閣下に仕えていた仲間達の立場を、ビュコック閣下や、ひいては同盟軍全体の下士官・兵の勇名をさらに悪くしてしまいかねないからな」

 そう言うとカールセン中佐は荒々しくコーヒーを飲み干し、大きく足音を立てて会議室から出ていくのだった。



 それから一三日かけ、特務分隊は予定通りアブレシオン星系に到着。分隊で唯一、制式塗装に戻したウエスカと残りの四隻がここで分離する。すでに各艦艦長には作戦案を通告してあり、変更がある場合は適時ウエスカから戦術コンピューター回路の番号を通知することになる。

 一方でウエスカは単艦でアブレシオン星系にある跳躍宙点へと進み、その前方六光秒付近に停止する。通常のパトロール手順通り、跳躍質量反応と次元航跡解析と分隊以外からも招集して定数をそろえた三機のスパルタニアンを発進させての三通りによる全周警戒を実施する。

 事前にマーロヴィア星域管区司令部より、トリプラ星域管区より駆逐艦二隻に護衛された計一三隻の護送船団が移動中との連絡を受けている。予定通りで行けば本物の護送船団は一九日に前方の跳躍宙点に出現する。それまでじっくり四日間、こ
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