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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第39話 猛将の根源
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嚮導巡航艦(通常の巡航艦に通信機器を無理やり増設した型)『ウエスカ』の小会議室で、艦長兼臨時分隊指揮官である髭もじゃの威丈夫は、太い腕を組み心底呆れたという表情で、俺と作戦案を交互に見ていた。
「この作戦案をビュコック准将閣下もモンシャルマン大佐も承認したのは間違いないんだな?」
「その通りです。カールセン中佐」

 最初にモンシャルマン大佐から預かった信頼できる艦の名簿を見た時、何故この人がここにいるのかはよくわからなかった。が、俺がカールセン中佐から吹きつける物理力を伴う威圧感に抗いながら応えると、カールセン中佐は大きく鼻を鳴らし、不満の表情を隠すことなく紙の作戦案をテーブルの上に放り投げた。

 まだモジャ髭がかろうじて黒いカールセン中佐は、その最期において参謀らしき士官に士官学校を出ていないこと、エリートに対する意地だけで戦ってきたこと、こんな時代でなければ到底艦隊司令官になれなかったことを独白している。中将にもなって、それも旗艦『ディオメデス』の撃沈寸前にそんなことを言うのだから、この人の士官学校出のエリートに対する反感は、ビュコックの爺様以上の筋金入りだろう。

 そして俺はそれなりに努力したとはいえ、結果として現場でヘマして辺境に流された士官学校首席卒業者以外の何物でもない。カールセン中佐が俺に好意を持つ一片の理由すらない。そして今、俺は不本意ながらも彼が最も嫌悪するであろう台詞を吐かねばならないのだ。

「今回の作戦において戦闘指揮・運航に関しては中佐にお願い致しますが、臨時戦隊の、ことに部隊運用に関しては、小官に従っていただきます」

 あぁ今この瞬間、俺はカールセン中佐にとってみれば完全に度し難い世間知らずの悪役エリート若造なんだろうなと、心の中で溜め息をついた。

 俺だってこんな事は言いたくないが、俺はこの作戦立案者であり同時に責任者でもある。おそらく、いや間違いなく『非情』『残虐』『卑劣』と批判を受ける決断をしなくてはいけない場面が必ず来る。その時先任士官であるカールセン中佐に責任を負わせるのは、甘っちょろいし筋違いと批判されるかもしれないが、俺の良心が許せない。作戦自体が失敗に終われば、俺の軍におけるキャリアは間違いなく終了する。だが成功しても批判されるであろう状況下において、カールセン中佐のキャリアを傷つけるわけにはいかない……一〇年後の同盟軍にとって、ラルフ=カールセンという指揮官の存在は巨大戦艦より貴重なものなのだ。

 だがそれを俺の目の前で、顔を真っ赤にし、血を噴き出さんばかりに拳を固く握り締めているカールセン中佐に言っても無駄だし、理解されるようなものではない。バグダッシュ、コクランの二人が加わったおかげで、作戦運用に大きく弾みがついて、状況終了までの期日は計算上かなり短くなったとはいえ
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