§9 戦禍来々
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大騎士といえども、所詮は大騎士。黎斗の前では赤子同然。剣を交えることすら許されず、傘の見事な連携の前に為す術なく屠られていく死者の群れ。惨劇の幕は一向に降りる様子を見せない。もし死せる従僕に血が流れていたのならば、この場には血の雨が降りそそいだだろう。そんな一方的な蹂躙。
「流石マスター、腕は鈍ってませんね」
肩にしがみついているエルが口を開く。慣れたものでしっかりとしがみつきながらも口調には余裕が見受けられる。だが黎斗の屠る速度を見ているうちに視線に呆れが入り始める。
「……訂正。結構鈍ってますよ。昔なら」
「黙ってて、舌噛むよっ」
衰えが一番わかっているのは自分自身だ。術だけでなく、こちらも鈍っているとは。指摘しようとするエルを黙らせ、電光石火の速さで敵に切り込む。ついさっき黎斗がいた場所から、先ほど切断された死者の首が灰となって飛んでいく。
「反省会は帰ってからね」
なんだかんだ言っても敵の総数はもうそろそろ十人を割る勢いだ。決着は、近い。
「マスター!」
エルの悲鳴に、思わず振り向く。
「ちっ!!」
黎斗の駆け出す先には、恵那と彼女を囲む大騎士。足元に数体の死体が灰になりつつある辺り互角に戦えることがわかるが、満身創痍な今の恵那ではもう無理だろう。殲滅したつもりが取りこぼしていたことに歯噛みしつつ駆け寄り恵那に振り下ろさんとする刃を傘で受ける。
「れ、れーとさん!?」
「大丈夫? こいつら倒すからちょい待ち」
返事をしながら、左に剣を突き刺す。右手の傘を前に投げる。投げられた傘は、途中で開き相手の視界を奪う。右からの攻撃から恵那を庇いつつ避け、後方からの切り上げに合わせて上空に飛び上がる。傘が破壊される頃には黎斗は距離をとることに成功した。
「くっ……」
傷に触れたのか、恵那が苦しそうなうめき声を上げる。このままではまずいか。顔色が土気色になりつつある。
「限界だな」
これ以上の戦闘は危険だと判断し、邪眼を発動。瞬間、相手の輪郭が歪む。ゆっくりと、しかし確実に相手の身体が消滅していく。あの男が今の消滅に反応するか。半ば博打だったがどうやら到来する気配は無い。
「あ……ありがとう……」
最後に、そんな言葉を残して死人は全員消え去った。意思でなかったとするならば、権能で囚われていたのだろうか。
「ほんにまぁロクでもない力だな……」
似たような能力を持っているからか口調に苦いものが混じる。憮然と呟き、気を失っている恵那を背負う。早く帰って手当てをしなければ。
「っか、認識阻害かけていなければコレ明らかに僕不審者だよなぁ……」
夜更けに意識の無い美少女を背負う男。絶対これはアウト
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