第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
003 ファースト・コンタクト
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ンはやはり、浮いているという自覚があるのだろう。
「ま、だろうな。じゃなきゃ、ヤンの成績は意欲と正反対の結果、ということになる。ヤンは戦史がやりたくてこの学校に入ったか?」
「自分はもともと歴史を学びたかったんです。ですが金銭的な問題で、普通の大学に入れなくなり??。まぁ結果的には満足しています。人間の歴史は、言ってしまえば戦争の歴史ですからね、戦史を学べば歴史を学んだと同じことでしょう?」
「確かに、戦争は人間の歴史を語る上で切っても切り離せないということは同意しよう。それにまぁ、やむにやまれぬ事情だろうしな、仕方が無い。では自分から望んでこの学校に入った俺はいったいどういうことか、という話だが??」
ヤンは紅茶を飲むことも忘れて、その答えを聞こうとして??
「俺にはやりたいことがあってな、そのためだ、と答えておこう」
??肩透かしにあった。
「??はぁ、それはいったいなんなのですか……と聞いていいのですかね?」
「ま、言ってしまえば使命感みたいなもんかな。守るべき人を守りたいというか」
「ご家族ですか?」
「ま、そんなところだ」
??家族。
という言葉には、ヤンは気になる響きを見つけ出したようだった。そもそも、ヤンにとっての家族は、一般的な家族のそれとは違う。だから人が考える家族の姿が、自分の持っているイメージとの擦り合わせができないのだろう。宇宙船の船長室で、ひたすらと壺を磨く父の姿ばかりが浮かび上がっている。
だがそれにしても、お茶を濁されたような気がしてすっきりしないヤンである。
その時、オーブンが焼き時間の終了を告げる、ベルを鳴らした。
「??ようやくクッキーが焼けたようだな」
フロルはクッキーを取り出し、皿に移した。綺麗なキツネ色で、上手く焼き上げられたようだった。一年かかって、ようやくこのオーブンの癖を掴めたらしい。
その皿を、ヤンに差し出す。
「一つ、食べてみくれ」
ヤンは小さく頭を下げてから、そのクッキーを手に取った。
口に含むと、予想していたより美味しかったようで、目を丸くする。
フロルは、そんなまだあどけなさを残すヤンを見ながら、頬に笑みを浮かべる。
心の中で、この未来の英雄を守り抜くという決意を、新たにしながら。
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