第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
003 ファースト・コンタクト
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で持ち込んだティー・ストレーナーでもって、二つのマグカップに紅茶を淹れた。
ヤンは缶を持ち出した瞬間から嬉しそうな笑みを浮かべている。フロルの識っている通り、ヤンは紅茶党らしい。
「俺はコーヒーも好きなんだが、菓子には紅茶が似合うと思うんだ。まぁ紅茶の淹れ方はほとんど我流だが、コーヒーよりは、な」
「私はコーヒーがだいき……苦手でして、紅茶一辺倒ですね」
ヤンは手渡されたマグカップを受け取りながら、そう言う。
「あまり高い茶葉ではないが、これで勘弁してくれ」
「コーヒーに比べればどんな安い茶葉でも美味しく感じますよ。??あ、別にこの紅茶が安っぽいってことじゃないんですが」
ヤンは口に出してから、それが不適切だと気付いたように慌てて言い重ねた。
逆に、フロルにはそのヤンらしい物言いが好ましい。これぞ、ヤン・ウェンリーだ。コーヒーを泥水と吐き捨てる男だけは、ある。
「紅茶はいろんな飲み方がある。シンプルに何も入れずとも美味しいが、砂糖を入れたりミルクを入れたりする人の方が、大多数を占めるだろう。暖かいのが普通だが、冷やした紅茶は夏に似合う。レモンを入れてもさっぱりして美味しいが、ジャムを舐めながら紅茶を飲む作法もあり、珍しい飲み方ならミルクで茶葉を煮出す、というのもある」
意外と知られていないことだが、ロイヤルミルクティーは日本独特の飲み方である。
「お詳しいのですね」
ヤンは自分以外の紅茶党??フロルは正確には紅茶もコーヒーも行けるクチなのだが??の発見に、感心したような言い方であった。
「紅茶に関しては下手の横好きさ。まぁ、好きだからと言って上達するとは限らないしな。また、嫌いだからと言って適正がないということもない」
フロルは手のマグカップから、視線をヤンに戻した。ヤンは久しぶりの紅茶を、楽しんでいるようである。
「ヤンは、軍が嫌いか?」
ヤンはフロルの唐突な質問に、驚いたようだった。そもそも、この平穏なご時世、士官学校に入る人間の大半は好んで入った者ばかりである。あるいは金銭的な問題で、入った人間も多少はいるのだが。無論、ヤンは後者だ。
「??い、いえ、自分は??」
「ここは入試の面接会場じゃあない。そんな気張ったことは言わなくていい。それとも、先に俺の答えを言おうか」
フロルはヤンの目を見た。覗き込むように、真剣に。
「俺は軍が嫌いだ」
ヤンとフロルしかいない調理室、その静寂が唐突に強調された。廊下で誰かが話しながら通り過ぎる物音が、聞こえるばかり。
「??自分も、軍人になりたくてこの士官学校に入ったではありません」
幾ばくかの空白のあと、ヤンは答えた。フロルの記憶が正しければ、ジャン・ロベールにしたって優れた軍人らしい軍人になっていくわけだし、非軍人的なヤ
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