第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
003 ファースト・コンタクト
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て行く。先輩などはフロルに揶揄の一つも飛ばしていくが、
「出来たら俺にも寄越せよ」
という言葉が大半であった。そもそも士官学校では食事に重きを置いていない。フロルが作る料理というのは、少なくとも軍用レーションや固形物が見えない食堂のシチューよりは好評であって、特に菓子は絶品と評判である。
あとはオーブンの中で焼き上がるのを待つだけ、という段階になってフロルは手持ち無沙汰のヤンに向き合った。無論、ヤンはフロルに呼び出されたのである。
「リシャール先輩はその、料理がお得意なのですか?」
ヤンはフロルの手際に感心したように、そう問いかけた。傍目から見ても、料理を作り慣れた人の手際の良さに見えたのだ。もっとも過去においてもヤンに料理を作ってくれる母親も父親はおらず、また現在に至るまでにおいても彼に手料理を振る舞う恋人もいなかったが。
「俺が作ったクラブがある。まぁ学校公認のクラブと非公式クラブも含めて、いくつか作ったわけだが、これは公認されたクラブ活動というやつだな」
「それが、お料理クラブですか?」
「実態はそうだが、名目上は<戦場における食の質を改善する会>だ。料理の出来る人間を集めているんだが、軍人になろうという奴にはどうやらそういう奴が少ないらしくってな、実働部隊は俺ばかりだな」
「はぁ、では他のメンバは」
「消費する側だな」
フロルは苦笑とともにそう言った。ヤンもまた料理人に群がる消費者を思い浮かべ、苦笑する。
「ヤンを呼んだも、まぁ今後の誼にクッキーを食わせてやろうという先輩なりの心遣いだ。まぁ多めに焼いているから、色々あげるんだけどな」
「では友人にも渡していいですか?」
「図々しいな」
「あ、す、すみません」
フロルは気にするな、と手を顔の前で振る。
「料理は食べるために作られる。甘いものが苦手なら、人にあげてもいいだろう」
「ありがとうございます。もしよければ友人を紹介しますが」
「女か?」
「残念ながら男です」
ヤンは肩を竦める。
「まぁ男なら男でしょうがないさ。例え女だとしても、俺は別嬪さん以外は守備範囲に入ってないからな。ちなみに、友人は何という?」
「ジャン・ロベール・ラップです」
フロルの眉がほんの少し上がったことに、ヤンは気付いていた。だが、その表情にいったいなんの意味があるのか、ヤンにはわからない。
「今度は女の子を紹介して欲しいものだ。こう見えても、お菓子だけは一端の腕を持っていると自負しているからな。是非、女性の意見も聞いてみたい。ちなみに今回のクッキーは甘さ控えめだ。市販の甘いクッキーが苦手でも、食えると思うよ」
「はぁ、ありがとうございます」
フロルは自分の鞄から紅茶の缶を取り出した。無論、士官学校の調理室に紅茶を淹れるための道具などない。私物
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