第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
003 ファースト・コンタクト
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くことで体力が消耗していく。
そもそも自分が捕まったとして、どれだけのペナルティが課せられるのか。一週間の外出禁止、反省文の提出、といったところだろうか。評定も下がるだろう。教官の虫の居所が悪ければ、トイレ掃除でもさせられるかもしれない。あるいは、図書館の整理とかであれば、進んでやるのであったが。
ヤンはそんなことを考えていたから、それに気付かなかった。
後ろから近づく人の存在に。
「動くな」
ヤンは唐突に首に押し当てられた、冷たい金属を自覚した。低く押し殺した声はヤンの耳元から発声されており、正面を向いているヤンは後ろの人間を見ることも敵わない。
視線を落としてみると、野戦訓練服を腕まくりした他人の手が見えた。
「わかっ……りました。えっと」
「氏名と所属と学年を言え」
??これじゃあ敵に捕まったみたいだ。
ヤンはもしかしたら、捕まったのは教官によってではないか、と思い始めていた。そもそも、自分に察せられずこんなに接近するとは??いや、自分が気付かないのはそれほど不思議なことではないか。
「ヤン・ウェンリー、戦史研究科1年、識別番号は??」
「ヤン・ウェンリー?」
押し当てられた時と同様に、唐突にその感触は遠のいた。背後から宛てられていた威圧感も遠のき、ヤンは知らず知らずに止めていた息を吐き出した。
振り向くと、そこには見覚えのあるような、ないような、確か先輩であったろうという顔の人物が立っていた。まっすぐ通った目鼻立ち、それなりのハンサム、紅茶色を淹れすぎたような濃い橙色。背はヤンより大きいだろう。
その推定先輩のその人物は、人懐っこい笑みを浮かべた。
「ヤン・ウェンリーって、あのヤン・ウェンリーか」
「はぁ、先輩がどのヤン・ウェンリーのことをお話かわかりませんけど、少なくともうちの学年にヤン・ウェンリーは一人だと思いますが」
「そうか、そうだよな。それにしても、ここで会うだなんてなぁ」
先輩は手に持っていたスプーンを胸のポケットに仕舞うと、手をパンツで拭って、ヤンに差し出した。ヤンにしてれば、いきなり差し出された手に、戸惑う。
「えっと」
「フロル・リシャール、戦略研究科の2年だ」
どうやら握手を望んでいるらしいと気付いたヤンは、慌ててその手を握った。手を握るなんて久しぶりのことだ。士官学校に入ってから、ずっと敬礼ばかりで、握手という平和的な挨拶が懐かしいくらいだった。
「えぇ……改めまして、ヤン・ウェンリーです」
「君の噂は聞いている」
リシャール先輩の手は力強かった。毎日、戦斧を振っている人間の手だろう。独特のたこができている。袖から見える腕も、筋肉がしっかりとついていた。
「はぁ、そんな噂になるようなことをした覚えがないので
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