風鳴る母(母の日特別編)
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
て母さんに一目惚れした。
ちなみにこの話は、当時父さんの護衛をしていた緒川さんの兄、緒川家現当主の総司さんからの又聞きだって緒川さんは言ってたんだけど……母さんに惚れてからの父さんの変わり様たるや、周囲から心配される程だったらしい。
弦十郎叔父さんや九皐叔父さんに、事ある毎に相談を持ちかけては、屋敷で寝たきりの母さんを喜ばせようとしていたとか。
不器用ながらも、父さんの好意は母さんにちゃんも伝わっていたらしく、二人は結婚した。
式場を取っての大きなもの、とはいかなかったが、中庭での小さなものが執り行われたと聞いている。
父さんも母さんも、きっと幸せだったと思う。
仕事しか知らなかった父さんと、愛されなかった母さん。
この出逢いが、運命と言わずして何だと言うのか。
──だが、その幸せは長くは続かなかった。
父さんは母さんの身体を気遣い、子を成さないと決めていたらしい。
母さんは子供を欲しがっていたが、床に伏しがちなその身体では、産んでも母さん自身が保たないからだ。
だから父さんは、子供は養子を迎える方向で考えていたそうだ。
母さんの夢を、厳しい現実と向き合った上で一つずつ叶えていく。
それが、父さんから母さんへの、精一杯な愛の示し方だった。
それを……土足で踏み躙ったのが、風鳴訃堂だ。
父さんが母さんとの子を成す気がない事を知ったクソ爺は、父さんが出張した隙を狙い、床の間の母さんを力づくで寝取った。
帰ってきた父さんの前に待っていたのは、純潔を奪われた事実に枕を濡らした母さんと、クソ爺直々の事後通達だった。
父さんの無念、悔恨は計り知れない。
積み上げて来た幸せを。誰にも侵させぬと決めたものを、身内の……それも血の繋がった父親が、家の存続という名目の元に奪い去った。
考えうる中では最低であり、最悪の結果だ。
護衛として父さんに付いていた総司さんも、彼の指示で母さんの警護に当たっていた部下の方々も、仕える家が擁する組織である風鳴機関の横暴を止められなかった無力を泣きながらに土下座したという。
そう語る緒川さんの目は、少し悔しそうだった……ように見えた。
やがて、母さんは姉さんを産んだ。
でも、母さんの衰弱は激しくて、入院を余儀なくされたらしい。
父さんは姉さんを「翼」と名付け、総司さんの弟である緒川さんを、姉さんの護衛に付ける事を決めた。
その後の事は、緒川さんや叔父さん達も詳しくは知らないらしい。
だけど、確かな事はある。
その後、母さんは3年もの間、病と戦い続けた。
少しでも長く、父さんと生きようと足掻いたらしい。
そして……その末に俺が産まれ、母さんは息を引き取った。
これは俺の憶測だけ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ