第三部
古い凧歌
亡国なきくにからの便たより
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どこかへ消え去ってしまっていた。
「閣下、始祖が閣下にお与えになった力とは、なんでございましょう?
よければ、お聞かせ願えませんこと?」
フーケが先を促すと、クロムウェルは己が演説に酔ったような口調で続けた。
「魔法の四大系統はご存知かね? ミス・サウスゴータ」
フーケは頷いた。
魔法を習った者ならば誰もが知っていることだ。
火・水・風・土の4つである。
「そう、その4つの系統に加え、系統魔法にはそれとは別の、もう一つの系統が存在する。
始祖ブリミルが用いし、零番目さいしょの系統。
真実、根源。
万物の祖となる系統だ」
「零番目の系統……、まさか」
『虚無』。
今は失われた系統だ。
それがいったい"何"を操る魔法だったのかすら、時の闇の向こうに流れ去ってしまっている。
この男は、"それ"が何かを知っているのだろうか?
それはつまり――
「余はその力を、始祖ブリミルより授かった。
だからこそ貴族議会の諸君は、余をこの世界ハルケギニアの皇帝とすることを決めたのだ」
この男は、『虚無』の魔法使いメイジだということか。
この奇妙な目も、『虚無』によるものなのだろうか?
視線の先のクロムウェルは、腰から引き抜いた杖をウェールズの死体に向けて。
こんなことを、言い出した。
「ワルド君。
ウェールズ皇太子を、是非とも余の友人に加えたいのだがどうだろうか。
彼は確かに余の最大の敵であったが、だからこそ死して後のちはよき友人になれると思うのだ。
異存はあるかい?」
「閣下の決定に異論が挟めようはずもございません」
首を振るワルドに、クロムウェルはにっこりと微笑んだ。
……何を言っているのだろうか、この男たちは。
そのようなこと。
死者と本当の意味で友人になることなど、現実に可能なはずがないではないかと。
「では、ミス・サウスゴータ」
フーケはそう思っていた。
「貴女に、『虚無』の魔法をお見せしよう」
この男が、杖を振るうまで。
低い小さな詠唱が、クロムウェルの口から毀こぼれだす。
それは、フーケが今まで聞いたことのない旋律だった。
5秒余りの詠唱を終えたクロムウェルは、そのままウェールズの死体へと優しく杖を振り下ろした。
フーケがまともな思考の出来る意識を取り戻した時、視線の先には、渇いた血だまりの跡が残る地面だけ
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