第8章:拓かれる可能性
第241話「戦線瓦解」
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陽はその場に崩れ落ちた。
葉月もかなり精神力を使ったのか、肩で息をしていた。
「ね、姉さん!」
「……悪い、もう立つのも無理だ。……しばらく、休ませてもらうよ」
「……はい。後は、任せてください」
力なくそう言った紫陽は、最後の力で幽世への門を顕現させる。
顕現させた場所は優輝達も通っていた学校の校庭だ。
避難している人も多い学校近くの方がいいという判断から、ここに顕現させた。
「……とこよの方も、勝ったはいいが力尽きたらしい……。ま、あんな無茶を通り越した神降しをして、それだけで済んだのが奇跡だけど」
「そうですか……」
妖を通じて、紫陽はとこよの状態も把握していた。
葉月や他の式姫にとって、とこよと紫陽は大黒柱とも言える存在だ。
その二人が戦線離脱を余儀なくされるというのは、かなりつらい。
「(だからこそ、私達だけで頑張らないと……)」
故に、葉月はその不安を塗り潰すように、決意を改めた。
「見た所、神界の連中は直接幽世には行けないらしい。いや、世界の壁を破るのだから、可能と言えば可能だろう。……でも、世界そのものの“領域”が強まったためか、それを為すのにかなりの労力を割くと見た」
「つまり……幽世は、比較的安全と?」
「そうだ。飽くまで、比較的、だけどね」
「なら、先程の二人や、一般の方々の避難を……」
「ああ。幸い、現世と幽世の境界が壊れているおかげで、生者が幽世に行っても何ら悪影響はないだろう」
本来であれば、二つの世界の均衡を崩す行為。
だが、そんな禁忌を無辜の人々を……ひいては世界のため、紫陽は容易く破る。
「じゃあ、葉月。後は……頼んだよ」
「……はい」
そう言って、紫陽は消滅した。
死んだ訳ではない。
式姫としての肉体を破棄し、一度幽世に戻ったのだ。
元々幽世の存在であるため、回復するにしてもそちらの方がいい。
さらには、式姫として顕現した時と違い、現在は二つの世界の境界が完全に崩壊しているため、式姫の体を経由せずとも現世に来れる。
「…………」
「……葉月ちゃん……」
聡と玲菜、そして久遠を連れ、いつの間にか戻ってきていた那美が声を掛ける。
仮初の肉体とはいえ、親しい姉の消失だ。
ショックを受けたのかもしれないと、那美は思ったが……
「行きますよ、那美さん」
「葉月ちゃん?」
「姉さんが後を託してくれました。皆さんも、まだまだ頑張っています。私達が立ち止まる訳にはいきませんよ」
……葉月は、一切動揺していなかった。
むしろ、より決意を固めた目をしていた。
「まずは、お二人を避難させましょう。現世よりも、幽世の方が安全です
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