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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十八話駿馬は龍虎の狭間を駆ける
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、去ってゆく男の足取りは荒い。首席幕僚の言葉は当然の物だ、
 そもそもあの男は工兵将校として四年ほど勤務した後はさっさと退役して龍州で皇龍道周辺の整備で一儲けした男であった。
 軍人としてよりも経済人として生きてきた類の男である。
「我が家のように、あぁいや、違うな我が家だったんだ、よく知っているだろうよ」
 その声には憐れむような何かが滲んでいた。
「帰宅の旅路がこのようなものになろうとはね。あぁその点は哀れに思うよ、俺も」
 とはいえ、彼もその中古品中尉の怒りと焦りに引きずられるようなことはなかったのであるが。





 既に夜の帳が降りが始めた頃、彼らは予定の通り目的地に接近しつつあった。

「各中隊、観測班配置につきました。第一中隊、第二中隊共に距離九百から八百間です‥‥あぁ第三中隊は第一目標は距離三百ほどまで接近しています」

「発射可能門数知らせ」「第一中隊全九門、設置完了、第二中隊同じく全九門設置完了、第三中隊、第二小隊射角調整中‥‥全門設置完了」
「よし。いいだろう始めよう。各門三発、それ以上は危険だ」

「なぁあれあてになるのか?」


 砲ではない。六寸程度の口径しかない五尺程の筒だ。それを台座と三脚を使って固定すると取り出したのは円筒状の弾頭である、先は緩やかな円錐になっている。
 重さは十貫程だ。中には炸薬がつまっているが、火薬の代わりに燃えやすく細工をした油脂が詰まっているものもある。
「俺は知らん、技術屋どもは幾分かマシになったといっていたが」


「思いついたものを詰め込んだようにしか見えないのだがな‥‥」
 六七式噴龍弾、思いついたのは誰だったか、諸将時代のころから似たような物はあった。飛火槍などと呼ばれていたこともあったとおり――実際は矢のようなものだが――槍で言えば穂先にあたる部分に玉薬をつけて飛ばす、花火のようなものだ。
 だが改良を重ねても狙いをつけなければ三里は飛ぶが物を狙うのであれば三百間程安定すれば大改良に成功した、といった扱いであった。
 だが誰かがふと考えた、施条銃は弾丸を回転させる、それならばこれも旋回させてしまえばよいのではないか、と。その思い付きは窮理学者達によって論理化され、難破船の解体に頭を悩ませていた廻船乗り達の元締達と軍が予算を放り込んだ事で実用化にこぎつけられた。
 
「莫迦、とりあえずこっちに飛んでこなければいいんだよ‥‥打ち方用意!!」

 シュウシュウと火縄の燃える音が響き、そして勢いよく弧を描きながら飛んで行った
「おぉ!」「へぇ技術屋も‥‥」
 と首席幕僚が感心したように頷こうとした途端、噴龍弾はグルグルと螺旋を描き――練石の壁にぶつかり、破裂した。

「おいおい‥‥」「こいつは――まぁ普通の使い方
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