第五章
[8]前話
「そうせぬか」
「化けものをですか」
「そうされるのですか」
「これより」
「うむ、そしてな」
そのうえでというのだ。
「楽しむか」
「ですか、確かに熊ならです」
「食えまする」
「それで、ですか」
「これよりですか」
「食うとするか」
こう言って実際にだった、小次郎は村人達と共に化けものの骸を解体してそのうえでその肉を食った。勿論そのはらわたもだ。
小次郎は鍋の中で茸や山菜と共に煮込んでいる化けものの肝を食って笑って話した。
「化けものの肝だけあって大きいのう」
「ですな、実に」
「人の頭の倍はあります」
「物凄い大きさです」
「しかも美味い、この肝を食ってな」
小次郎は実際に食いつつ言った。
「あ奴と決着をつける度胸をつけるか」
「あ奴?」
「あ奴といいますと」
「拙者の生涯の敵じゃ」
あの粗削りだがそれでいて精悍な剣術を持つ男を瞼に浮かべつつ話した。
「あ奴に勝ってこそ拙者は真の武芸者よ」
「今でもかなりだと思いますが」
「化けものを倒されましたし」
「それでもですか」
「うむ、あ奴の強さはこんなものではない」
熊の化けものより遥かに強い、小次郎は確信していた。
「だからな」
「それで、ですか」
「そう言われますか」
「その様に」
「左様じゃ、あ奴に勝ってこそな」
まさにというのだ。
「拙者はまことに武芸者、ならばな」
「今はですか」
「その方との決着をつける為に」
「この肝を喰らうか」
その強さをつける為にというのだ、こう言ってだった。
小次郎は村人達と共に今は自分が倒した化けものを喰らった、そのうえであの者との決着の時に備えるのだった。それが必ず来ると確信しているからこそ。
鬼熊 完
2019・11・12
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