第一章
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蚊帳釣り狸
四国といえば狸である、それは土佐でも同じことだ。
坂本龍馬はまだ藩にいた時に武市半平太に言った。
「まっことこの四国は狸ばかりぜよ」
「八百八狸と言うだけにな」
武市も龍馬に応えた、今二人は武市の屋敷で茶を飲みつつ話をしている。剣術の稽古の合間の一時である。
「多いな」
「狐はおらんがのう」
「とにかく狸ぜよ」
「特に阿波だな」
この国だとだ、武市は龍馬に言った。二人と共に岡田以蔵もいるが今は言葉を出さない。
「あそこはもうな」
「狸共の本国ぜよ」
「この四国のな」
「四国は狸の領地ぜよ」
龍馬は茶を飲みつつ笑って話した。
「人だけの領地ではないぜよ」
「それは言い過ぎではないか」
武市は龍馬の今の言葉にはこう返した。
「流石に」
「そうかのう」
「やはり四国ひいては日本は人の領地じゃ」
「人だけではないがのう」
「日本におるのはか」
「狸には幕府も藩も関係ないぜよ」
龍馬は自分の考えも話した。
「だからぜよ」
「四国はか」
「人の領地であってもな」
それだけでなくというのだ。
「狸の領地でもあるぜよ」
「そうしたものか」
「それでこの土佐もじゃ」
自分達がいるこの国もというのだ。
「人の領地であるが」
「狸の領地でもあるか」
「そうぜよ、あと犬神や猿神もいるぜよ」
「土佐はそうした話も多いのう」
「ははは、色々なモンの領地じゃ」
こうも言うのだった。
「日本で日本人の領地じゃがな」
「人なら紅毛のモンでははないな」
「そこはまっこと違うぜよ」
龍馬は武市にこのことはと断った。
「やっぱり日本は人はな」
「日本人じゃな」
「日本人の領地じゃ」
「紅毛の国ではないな」
「そこはしっかりとしておかんと駄目ぜよ」
龍馬はそこは譲れないと言い切った。
「さもないとほんまにこの国はなくなってしまうぜよ」
「連中に国を取られてな」
「そこは注意すべきぜよ」
何といってもというのだ。
「やっぱり」
「それはそうじゃな、しかし」
「しかし。どうしたぜよ」
「その狸で妙な話がある」
武市はここで龍馬に話した。
「俗に化かしたと言われておるが」
「迷信でないんじゃな」
「どうも違う様じゃ」
「それはどんな話ぜよ」
「須崎の方で夜道を歩いているとな」
そうしていると、というのだ。
「道に蚊帳が釣ってある」
「それはおかしいのう」
道に蚊帳がと聞いてだ、龍馬は言った。
「随分と」
「そうじゃな、それでおかしいと思いつつ蚊帳をまくるとな」
そうすればというと。
「また蚊帳がある」
「またか」
「そしてその蚊帳もめくるとな」
「話が読めた、それでまたじゃな」
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