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ムヒョ記
青春の残像か、さすれば徒労相続の虐待か

[8]前話 前書き
ムヒョは学もなく、労働意欲も低いぐうたらを絵にかいたような愚人だった。怠惰の権化と形容すべきこの男の生存を村人が許した理由。それは実に不可解極まる理由だった。
「ピーコロ?♪ 信託が整いました」
いつものように真昼間から酒瓶を転がし、馬小屋で干し草を寝床にしているムヒョを怒り狂った農民が追いつめた、まさにその時。
七色の後光が壁際に追いつめられたムヒョの背中から放たれた。
「貴様ッツ。どこでそんな妖術を」
桑や鋤を手に、全身これヌッ殺すマンモードに突入していた男たちは度肝を抜かれた。
「ピーコロコロ?! ウンモよろず金星人の信託が整いました」
などという、意味不明の語句を口走るなり、ムヒョは虚空にふわりと浮かんだ。
「やはり、天童楽衆の変化か。この者はムヒョではない。狐狸妖怪のたぐいだ。ええい、構わん。斬れ斬れ」
駐在武人がおっとり刀で駆け付け、脇差を抜いた。
するとだ。ムヒョが静かに告げたのだ。
「ウンモよろず金星人である。五万と22年の時を隔てて信託を整える。しかと記せ。二度は言わぬ」
「ええい!斬れ」
武人が構わず刀を振り上げた。
するとだ。
ひとふりの刀が見事な桜の枝に化けたのだ。世は小二田公房帝国の春。ざじずぜ桜の見ごろである。
「は、は? 信託?」
ふりかざした桜の置き場に困り、武人は腰を抜かした。
ムヒョはそんなことなど我関せずとつづけた。「ウンモよろず金星人が技術の粋を結集して小二田公房帝国の民に告げる。信託は整った!」
「うひゃぺらあ!」
前代未聞の出来事に農民たちは狂乱し、逃げまどった。唯一、年波を重ねた長老だけが歩み出てムヒョにかしずいた。
「すこしだけ。ほんの少しだけ猶予をお与えください。いま、読み書きが出来る者をさがしております」
「お前がそうではないのか?」
ウンモよろず金星人が眉をひそめた。
[8]前話 前書き


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