後編
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けて倒れたとき、恐ろしくて気が狂いそうになった。お父様を無くした時のことを思い出してしまった。また私は自分の愛する人を失ってしまうのかと・・・。」
美鶴がそこで言葉を止めて、考え込んだ。
しばらくして、何か納得したようにうなずく。
「先輩?」
「愛する人か・・・恥ずかしい話だが、私は今まで恋心というものを持ったことが無い。」
美鶴は顔を上げ、真っ直ぐに ゆかり を見つめて言った。
「恥ずかしくないです。そんなもの、私も持ったことないです。」
「だが、君を失うかも、と思ったことで気づいてしまった。私がどうしてかつてないほど不安な気持ちになったのか。この気持ちは間違いない。」
美鶴は一度言葉を止め、それからかみしめるように言った。
「私は君に・・・恋をしているらしい。」
「その結論は・・・待ってください。少し落ち着きましょう。」
ゆかり はすかさず手のひらを突き出して、必死に美鶴を制した。
告白を受け、頭に血が上る。混乱して考えがまとまらなかった。少し落ち着いて考えたい。
しかし、美鶴は自分の思いに取りつかれたかのように、止まらずに語り続ける。
「こういう恋愛があることは、知識としては知っていた。そういう人たちに差別意識は持っていなかったつもりだが、・・・自分がそういう素質のある人間だとはまったく思ってもいなかった。だがここに至って自分の気持ちをごまかすことはできない。」
美鶴は真剣そのものだ。堰切ったように思いのたけを告げる。
「君が好きだ。間違いなく、それが私の本心だ。」
ゆかり の動揺は頂点に達した。完全にパニック状態だった。赤面し、硬直し、いたずらに目を泳がせるばかりだ。頭の中では、いったいなんでこんな展開になったんだろう、という疑問がぐるぐると回っていた。
その ゆかり の様子に気づいた美鶴が、我に返ったように目を伏せて声を震わせた。
「私が君にまた迷惑をかけているということはよくわかる。急にこんなことを言われて、さぞかし気持ち悪いと思うが・・・。」
「いや、別に気持ち悪くはないです。・・・全然ないです。」
「気持ち悪い」という言葉を聞いて、反射的に声が出た。上ずったまま早口になる。どうしたらいいのかわからない。考えがまとまらない。ただ、それでも美鶴のことを否定だけはしたくはなかった。
「むしろ好意を持ってもらってうれしいというか・・・でも・・・自分でも、こういうことを考えたことなくて、すっごく混乱してて・・・。」
「・・・うれしいと言ってくれるのか。」
美鶴がすがるような目つきで問いかけてくる。ゆかり は こくん と唾を飲み込んだ。
「それは・・・もちろんです。」
そう言ってうなずくと、不思議とその自分の言葉が胸に落ちた。
そんなの、うれしいに決まっている。自分の大好きな人が、自分のことを好きだと
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