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さらわない
第五章

[8]前話
「そしてな」
「そのうえで、ですな」
「我等は都に向かう」
「そうしますな」
「そうしようぞ」
 こう言ってだった、一族の者達に都への道を行く様に言ってだった。
 そして都に着き主の前に参上してからその務めに入った、そうしてある時周りの者達にこの時のことを話した。
「そうしたことがあったのじゃ」
「ふむ、?国という女を攫う妖怪ではなく」
「覚であったか」
「そして覚は人の心を読むか」
「そうした妖怪でか」
「おなごを攫わぬか」
「実際にそうはしなかった」
 内藤は都で友人達に話した。
「有り難いことにな」
「左様であったか」
「しかしその話を聞くと覚は怒っておるな」
「?国と間違えられて」
「その様だな」
「そうだな、声は不機嫌なものだった」
 実際にとだ、内藤も答えた。
「どうもな」
「人のおなごを攫う様なことはせぬ」
「それが覚の誇りか」
「妖怪にも誇りがあるのだな」
「そうであろうな、そう思うと悪いことをしたか」
 内藤は友人達にその時のことを振り返って述べた。
「どうもな」
「そうかも知れぬな」
「妖怪と言えど誇りがあるしな」
「その誇りを傷付けたなら」
「やはりな」
「そう思うと詫びを入れておくか」
 こう言ってだ、内藤は今度覚と出会ったその山道に自ら言って詫びの贈りものを置こうと思っていると。
 その夜の夢に当の覚が出て来て言ってきた。
「酒でよいぞ」
「酒か」
「それを道に置いていってくれ」
「それでよいか」
「それで機嫌をなおさせてもらう」
 覚は夢の中で彼に言った、彼はそれを受けて朝起きるとすぐに自ら供の物を連れて彼に酒を運ばせてだった。
 その山道に酒を置いた。するとそこに覚が出て来て酒が入った樽をひょいと背負ってから彼に笑って言った。
「ではこれでなしだ」
「そういうことでな」
 内藤は彼に笑って応えた、そうして覚と別れの挨拶をして都に戻った。以後彼がこの妖怪と出会うことはなかった。
 室町時代中頃に伝わる話である、覚は?国ではなく?国自体が日本にはいないという。実際にはどうかわからないがこうした話が残っている、それならば事実であろうか。妖怪の話は何かと面白いがこの話もそうであると思いここに書き残した。少しでも多くの人が読んでくれれば幸いである。


さらわない   完


                  2019・12・13
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