第一章
[2]次話
さらわない
?国という妖怪がいる。
山にいて女だけを攫い自分の妻として子を産ませる、その妖怪の話を聞いてだった。
甲斐の守護武田氏に使える武士である内藤甚五郎は難しい顔をして友人達に言った。
「わしは今度都に上がる」
「殿に言われてだな」
「それで一族郎党で都に上がり」
「暫しそこに詰めるな」
「殿から直々に言われてな」
都にいる主に言われてというのだ。
「そのうえでな」
「左様だな」
「途中信濃に美濃を通って行くな」
「そして近江も」
「近江はともかくな」
この国は置いておいてとだ、内藤は述べた。
「美濃もそうであるが」
「信濃だな」
「そしてこの甲斐にしてもな」
「山が多いな」
「そしてだな」
「そして話を聞くとな」
?国、この妖怪についてだ。
「それは山に出ると言うではないか」
「うむ、山道に出てな」
「そうして女が男の服を着ても見破りな」
「女だけを攫うという」
「実に厄介な妖怪よ」
「わしの女房も一族の女房や娘達も連れて行くのだ」
内藤は友人達に難しい顔で述べた。
「賊の類は容赦なく切り伏せるが」
「しかしか」
「相手が妖怪になると」
「それならか」
「そうだ、だからだ」
それでというのだ。
「心配だ」
「あれは異朝の妖怪だぞ」
友人の一人がここでこの話をした、皆内藤の屋敷に集まり酒を汲み交わしながらそのうえで話をしている。
「それも奥の方に出るらしい」
「蜀の方だな」
「本朝に出るのか」
内藤にこのことを問うた。
「果たして」
「それは聞いておらぬが」
「それでもか」
「異朝の妖怪は本朝でもよく出て来るではないか」
内藤は友人にこのことを話した。
「そうであろう」
「元々狐にしてもな」
「化ける狐は異朝からだな」
「うむ、あの玉藻前もな」
かつて鳥羽院を悩ませたこの九尾の狐もというのだ。
「異朝の生まれであった」
「殷の紂王、周の幽王を惑わしたな」
「天竺で王子もたぶらかしたという」
「あの狐もそうであるし他の妖怪もな」
「異朝から来た者が多くか」
「その?国もな」
この妖怪もというのだ。
「いるのではないか」
「そう思っておるか」
「その姿はわかっておる」
?国のそれはというのだ。
「大きさは人間程でしかも猿に似ておるというな」
「狒々の様だというな」
その友人は内藤に答えた。
「何でも」
「では大きな猿を見ればな」
「その時はだな」
「即座に成敗致す、わしは弓には絶対の自信がある」
武士の表芸であるこれにはというのだ。
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