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両手のハンマー
第四章

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「ジョンもやるな」
「そうだな」
「だったらな」
「若しかしたらな」
「勝てるな」
「ひょっとしたら」
「ああ、これはな」
 工夫長も言った。
「いけるかもな」
「そうですよね」
「ひょっとしたら」
「これはいけますよ」
「ジョン勝てますよ」
「ドリルに」
 工夫達も希望を持った、ジョンは休む間もなくまた疲れなぞおくびにも出さずに掘り続けた、そうして凄まじい勢いで掘り続けるドリルとの勝負を続け。
 勝負の時間が終わった、その時に鉱山の者達はそれぞれが掘った穴を見たが。
 ジョンの堀った穴の方が大きかった、しかもより正確であり。
 工夫長も工夫達も口々に笑顔で言った。
「ジョンの勝ちだな」
「ああ、どう見てもな」
「ジョンが勝ったな」
「機械に勝ったぞ」
「本当に勝ったぞ」
「工夫長、これでいいですね」
 勝負が終わってもだった、ジョンは全身汗だくだがそれでも立っていた。そのうえで工夫長に顔を向けて尋ねた。
「皆は」
「ああ、約束だからな」
 それでとだ、工夫長も答えた。
「皆このままだ」
「この鉱山で働いていいですね」
「勿論お前も俺もな」
「それは何よりです、ですが」
 それでもとだ、ジョンは言ったのだった。
「俺はもうこれで」
「疲れたか」
「いや、もう立っていることさえ」
 笑顔である、だがそれでもだった。
 全身から汗を流し続け肩で息をしている、もう誰が見ても明らかだった。
「ですから」
「ああ、よく休め」
「そうさせてもらいます」
 こう言ったその時にだった、ジョンはその場に倒れ込んだ。鉱山の者達が慌てて駆け寄ると完全に気を失っていた。
 それでジョンを鉱山の宿舎に入れてそうして休ませた、ジョンは丸一日寝るとパンと肉をふんだんに食ってから仕事場に戻ってまた両手のハンマーで掘り続けた。
 ジョン=ヘンリーの伝説は十九世紀後半からアメリカにある、果たしてこの人物が実在したかどうかはわからない。だが労働者を敬愛するアフリカ系アメリカ人の間では今も語り継がれているヒーローだ。その彼の逸話も残っている。それがこの話である。少しでも多くの方が読んで頂ければ幸いである。


両手のハンマー   完


                  2019・6・12
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