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黒魔術師松本沙耶香 糸師篇
第十六章

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 紗耶香は原宿の中で調べる度に操られている者達と会った、老婆や大学生位の女、まだ中学生程の少年に警官、パフォーマ―等様々だった、だが。
 その誰もがだった、紗耶香はそのことを今は銀座のある寿司屋で警視庁の男に話した。
「皆同じだったわ」
「操られているだけですか」
「ええ」
 最上級の日本酒を飲みつつ男に答えた、尚料亭の金も紗耶香が出すと彼女が言っている。
「皆ね、操られている時も誰にそうされたのかもね」
「覚えていないですか」
「一切ね、ただわかってきたわ」
 紗耶香はカウンターで男と共にいる、そこで海胆を食べつつ話した。
「糸が何かわ」
「操っているそれは」
「ええ、糸といえば何かしら」
「蜘蛛か刺繍か」
「もう一つ思い浮かぶかしら」
「さて」
「糸で人を操るといえば」
 紗耶香は男の方を見ず寿司を食べつつ問うた。
「どうかしら」
「マリオネットですか」
「そう、どうやらこの度はね」
「マリオネットですか」
「日本で糸を使うといえば蜘蛛の妖怪ね」
「蜘蛛の」
「土蜘蛛や女郎蜘蛛よ」
 こうした妖怪の名前をだった、紗耶香は挙げた。
「知っているかしら」
「土蜘蛛は知っています」
 男はかじきを食べつつ紗耶香に応えた、紗耶香が金を出しているとはいえ遠慮して安いものを頼んでいる。尚バーでは彼がそればかり飲んでいたジントニックはその店でかなり安いものだったが彼の好みでもあった。
「関西、特に奈良に多いですね」
「そうよ、源頼光公も襲ったわ」
「歌舞伎でありますね」
「それで有名ね、そうした妖怪がいるけれど」
「日本には」
「勿論この東京にもいるわ、東京は日本だけでなく世界中から魔が集まるから」
 紗耶香は今度は海老、生のそれを食べている。海老のその味を楽しみつつ言うのだった。
「土蜘蛛、そして女郎蜘蛛もね」
「いますか」
「そうよ、東京にいない魔はいないわ」
 こうも言うのだった。
「妖怪や怨霊、魔人、実に素敵よ」
「そして日本の妖怪だけでなく」
「ええ、世界中からと言ったわね」
「西洋の妖怪もですか」
「イギリスの妖精、中国の妖怪、アメリカのネイティブ達の精霊にね」
「他にもですか」
「東西の魔が集う最高の素敵な街よ。人が歩くそのすぐ傍で」
 東京のそこでというのだ。
「魔が潜んで蠢いているのよ」
「それは恐ろしいですね」
「安心していいわ、今回みたいなこともあるけれど魔は無粋ではないから」
「人に害を加えることは殆どない」
「そうよ、魔は魔でこの街での暮らしを楽しんでいるわ」
 東京のそれをとだ、紗耶香は酒を飲みつつ話した。見れば日本酒もかなり飲んでいる。寿司も口にしているがそちらも止まらない。
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