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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十七話 護州軍の進撃
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「このままならば夜までもつでしょう」
 そう言いながらも参謀長としてふるまう豊地も内心は見かけほど落ち着いているわけではない。
 定康の演技の裏にある焦燥を見抜く事はできなかった。だからこそ余計なことを言ってしまったのだ。
「今のところは威力偵察のような物です、本番は明日以降、龍州軍との連携が鍵になります」

 定康は少し視線を落とした後に張りのある声で告げた。
「前衛の激励に行く」

「危険です」
 豊地は露骨に顔をしかめた。ここで死なれるのが一番迷惑だという事は定康にもわかっている。
「だからこそだ、俺が顔を出せば士気も上がる。貴様はここで状況を管制しろ。兵站の担当を一人寄こせ」
 しかし、だからこそ、自分自身の為にもここでやらねばならないのだ、と決めつけていた
 定康の言葉の裏に何が煮込まれているのか、豊地はそれをうっすらと感じ取り溜息をついた
「かしこまりました。旅団本部に連絡を入れます」




「不足はないか?」「砲弾薬の消耗が想定より早いです」
「わかった手配させる、委細は大尉と話せ」

 砲弾が前衛の陣地を叩く、幸いといえるのは砲兵戦力が聯隊規模程度てあることだろう。
第5騎兵師団は二個砲兵大隊のみを所有している。それも六芒郭包囲戦が本格化する事で砲兵の補充が著しく遅れていた。ブラットレーの重猟兵師団から分派された兵力をと合わせても一個連隊に満たない。とりわけ擲射砲の兵力は四分の三程度であった(これで滞っているというのも贅沢であるが)
 火力戦においては護州軍が優越していた。だからこそ旅団長は”若殿さま”の我儘に頭を抱えながらも予備部隊へならばと査閲に同意した。

「若殿様、小半刻だけです、すぐにお戻りください」
「分かっている」
  とはいえ当然ながら定康の訪問を受けた大隊長は率直であった。彼も重臣団の生れであったが、北領で天狼から逃れる為に幾度か中隊長として血を浴びた経験が貴族としての立場よりも重みを為す性質の人間であった。
 自分が具申したら受け入れる事を言葉を飾らずに求めた。
 そうした男だから豊地参謀長は誘導したのだな、と定康の後ろに控えていえる宵待は思考していた。
 彼を側近に、と定康へ具申をしたのは愛人でもあるかれ(彼女)であった。それは正解であったと感じる。草浪道兼が現当主に示す敬愛の念は誰もが知っていた。
 だが守原英康に対して奥底に抱いている感情を察しているのは彼女(かれ)の”女”の部分だけであった。
 だが定康にとってはそれで十分だ。そして自分が英康の傀儡になるつもりはない、と決めたのであれば猶更に。

 兎にも角にも、訪れた中隊では指揮官としての振る舞いを行うことができていた。最前線より一里ほど離れた掩体壕と最前線に続く曲がりくねった
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