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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十七話 護州軍の進撃
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ている。

 成程、ただの莫迦ではないな、と考えながらも豊地は唇をゆがめて答えた。
「それが戦争における積極的な行動というものです、若殿様。
可能性を潰しおえばまた別の危機が生まれる、我々はそれを管制する為にここにいるのですから」
 豊地は上官の後ろに控えた美しいいきものに視線を送る。副官は心得た顔で頷いた。
 新兵の前線司令官というリスクを負ってもやるべき価値がある事だと豊地は判断していた。



同日、午後第二刻 吼津より西方約十五里 虎喉大橋防御陣地
護州軍 派遣兵団司令官 守原定康少将

「‥‥‥来たか」
 敵は紛れもなく精兵である。
 東方辺境領第5騎兵師団に銃兵一個旅団が増強された部隊である。第五騎兵師団は消耗著しく、後方警備に回っていたがこれにより単純な戦力は敵を優越していた。
 龍兵偵察の結果を受け、デュランダール少将は敵部隊の撃滅の為に伏ヶ原に集結させた主力を前進させた。『蛮軍が欲を出したのであればわからせてやるだけだ』と豪語していた。
実際的な話としてここで敵を打ち倒せば冬営前の最大の課題であった鎮定軍内の幾つかの問題が解決するという目論みもあった。
 個人的にもアレクサンドロス作戦の大突破の成功に加え、ここで蛮都を突く最後の障害をここで叩き潰す事に成功すれば、もはや東方辺境領内でも不動の名声を得る事はもはや確実だ。東方辺境領では老後を保証するものは功績に応じて支給される年金と場合によっては皇帝自らの受勲すらありえた。そうなれば〈帝国〉全土の名将に並ぶ事ができる。
 デュランダールが率いる総兵力は一万五千、後方には五千名の兵力を予備として拘置。六芒郭に重火力が集中した都合上、砲兵戦力にやや不安があるが純粋な兵の頭数では優勢であった。

「これまでの戦訓、そして護州軍の力を御覧に入れます」
 豊地は冷静に返答した、参謀長としてあるべき姿であった。
「質問はするが口は出さん、貴様の思う通りに知恵を出せ」「はっ」
 豊地が頷く。
「砲兵旅団射撃準備完了」「まだ撃つな」
 導術兵は無言でうなずく。永劫と思われるほど砲弾が一方的に着弾する音が響き続ける。
 どれほど時間が経ったのか、と定康が落ち着かなくなってきた頃にようやく別の導術兵――前衛の銃兵旅団本部と交信をしている――が声を上げる。
「敵兵大隊規模渡河完了、第二陣渡河開始!」
 若殿様、と促す豊地の声も少しだけ震えていた。
「よろしい、攻撃を開始せよ!」

 大橋が爆破された。川の幅はせいぜい三十間程だが虎城より材木を龍虎湾へ運び出す運河として浚渫されている。北領と違い水温は低くないが、水堀としての機能は変わらない。楽に渡れるものではない。 
 不幸にも渡河に成功した〈帝国〉兵達は平射砲と銃兵の射撃を受け、たちまち崩れてゆく。
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