後編
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それは久しぶりに味わう家庭的な雰囲気だった。
カレーもすごくおいしくて、勧められるままにお代わりまでしてしまった。
誰かと食べる食事はこんなに楽しく幸せなものだったのか、と天田は密かに感動していた。
満腹になったせいか、夕食後には瞼が重くなってきた。考えて見れば昨夜はタルタロス探索で遅くなり、寝たのは2時過ぎだったのだ。天田の年齢にしてはかなり遅い時間だ。
「眠そうね、天田君。」
母親が気づいて声をかけてきた。
「ああ、ごめんなさい。おなか一杯になったので・・・つい。」
「いっぱい食べてもらってうれしいわ。」
「本当においしかったです。ごちそうさまでした。」
ちょうどそこに、この家の主である中年夫婦が返ってきた。
おじさんが奥さんを病院に連れて行き、検査を受けてきたらしい。
おじさんは、堂島親子の話を聞くと「そうかい。よく来たね。」と天田に屈託ない笑顔を見せた。
しかしおばさんの方は、具合が悪いと聞いていた通り、頭を下げて挨拶をしたものの何も言わず、表情も虚ろだった。その魂の抜けたような様子に、天田はそこはかとない不安を感じた。
おばさんを部屋で寝かせた後、おじさんが菜々子の母親に病院で受けた検査の報告を始めた。いろいろ調べたが体のどこかに異常があるわけではなく原因がよくわからない。精神的なものかもしれないので今度は精神科に行く、といった話が聞こえてきた。
「おばちゃんね、いつもわらっていてすごくおしゃべりなんだよ。・・・でもいまはびょうきだから、ぜんぜんしゃべらないの。」
菜々子が声を潜めて心配そうに言った。
おばさんの様子は、天田に影人間を連想させた。最近、巷でよく見かけるようになってきた無気力症の症状だ。
元気だった人が突然に意志力を失い、廃人のようになってしまうという謎の病。そうなると自力で生活することもできなくなる。その病の原因が何なのか、何故 突然 爆発的に流行し始めたのか。いろいろ推測されてはいるが、現時点では全く解明されていない。
しかし天田は、その原因がシャドウとタルタロスに関係していることを知っていた。
「菜々子ちゃん、おばさんのこと好き?」
「うん。・・・おばちゃん、すごくおもしろいんだよ。『なんでや〜』とか『ほんまに〜』とか、おっきなこえでいうの。」
菜々子が関西弁風の物まねをして笑った。
「それにね、すごくやさしいの・・・。はやくなおるといいなあ。」
少しうつむくとまた寂しそうに言った。
「そうだね。」
天田はそう応えながら、(できることなら、なんとかしてあげたいけど・・・)と思った。
その後しばらく菜々子の相手をしていたが、母親とおじさんの話の切れ目に「僕、そろそろ帰ります。」と声をかけた。
「あら、そうね・・・もう、こんな時間だし・・送っていくわ。」
気づいた母親が慌てて言
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