重ねた温度を想う
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去年の花火は綺麗だった。写真としては上手く撮れているものが少ないけれど、思いを馳せれば閉じた瞼の裏に鮮明な光線を描きだせる自信がある。――やや不愉快に感じるじっとりとした風、大勢の人混みと出店から生まれる生暖かい熱気に、拭ったばかりの汗が滲み出す。客寄せの謳い文句があちこちから聞こえ、がやがやとした雑踏が一気に賑やかになるのだ。それに加え、こういうと聞こえが悪いが、泣いている子供や迷子を捜すために一定間隔で名を呼ぶ大人達の一景も含めまた、祭りといえよう。
そういえば、小さい頃の自分はどうだったのだろう。両親からはそういった話をされたことがない気がする。記憶にあるのは、やんちゃというか我儘だったということか。両親と行った花火大会で、最初は父に抱きかかえられていたのだが、どういう訳か自らの足で歩きたいのだとだだを捏ね、熱の篭ったアスファルトへと下ろしてもらったっけ。苦笑いで顔を見合わせた父と母に両手を繋がれ、ゆっくりと土手沿いを歩くのがとても楽しかったことを今でも覚えている。まあそれも、目線が下がったことで出店を覗きたくとも叶わず、前を見ても人の足だらけで僅か数分後には不貞腐れるのだがしかし、少々負けん気の強い子供は望んだ傍から、腕の中へ戻りたいなどと言えるはずもなかった。結局、当時お気に入りだったキャラクターがプリントされている袋に詰まったわたあめを買ってもらうまで、口をへの字にしていたという。
「ふふ、懐かしいなあ」
「……どうした」
ひとり思い出し笑いをしたところで、それまで静かに座椅子と化していた男の声が降ってくる。念の為に言っておくと、わたしがそう命じたのではない。断じて違う。いつもの様にただ置いてあるだけのクッションをお借りしようと腰を落としかけたところで腕を引かれ、すっぽりと背後から囲われてしまったのだ。自分でも驚くくらいフィットするこの体勢には残念ながらまだ慣れておらず、心構えが出来ていない状態でいきなりというのは恥ずかしいのだけれど、彼の方が好ましく思っているようなので大人しく胡坐の間に収まることにして――いやいや、そんな状況の説明はいらない。とにかく、実は密着している気恥ずかしさを誤魔化そうとスマホの写真を眺めていたのである。
「ちょっとね……ちっちゃい時、すごくワガママだったんだなぁって」
「そうか」
次の土曜日には、そこそこ有名な花火大会が催される。勿論、今年も彼と一緒に見に行くことを約束していた。
「今年も楽しみだね」
いくらか気持ちに余裕が出てきたので、最後は同意を得るように後方へ体重を掛ければ頭上にあった温度は右頬へ移動し、すりすりと猫のようなスキンシップが返ってくる。寡黙な彼は大変に整った顔立ちをしているのだが、いかんせん口数が少なく、体付きを含めれば見知らぬ人には恐ろしく
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