暁 〜小説投稿サイト〜
戦姫絶唱シンフォギア〜響き交わる伴装者〜
装者達のバレンタインデー
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

流石にいたたまれなくなり、緒川は泣き出しそうな翼の涙を拭こうと、ハンカチを取り出そうとする。

しかし翼はその手を遮り、袖で涙を拭うと宣言した。

「いえ……私は、今年こそは……自分の手で渡すと……決めたのです……。だから……だからッ!!」

翼は顔を上げると、緒川の目を真っ直ぐに見つめる。

緒川は胸ポケットにハンカチを仕舞い直し、改めて翼と向き合う。
情けは無用だと彼女は言った。ならば、彼女の決意には相応の態度で応えなければならない。
緒川は黙って、彼女からの言葉を待った。

(立花が言っていた……。最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線にッ!風鳴翼、お前も乙女であると言うのならッ、胸の想いを貫き通せッ!)

もう一度息を深く吸い込み、呼吸を整え、そして……

()()()()ッ!わたしの気持ち、どうか受け取ってくださいッ!!」

防人としてではなく、歌女としてでもなく。ただ一人の少女としての”風鳴翼“が、緒川慎次という名の想い人へと届ける想い。

それは彼女の口が紡いだ言葉で。月下美人のような麗しさを湛えた顔が織り成す表情で。

大空を映すような瑠璃色の瞳で。白磁から桜色に染まった頬で。

全身全霊その全てで伝える心が今、緒川へと伝わった。

「はい、確かに受け取りました」

翼から菓子の包みを受け取ると、緒川は彼女へ向けて優しく微笑んだ。

「後で美味しく戴きますね」
「ッ!その……今、では……ダメ、ですか?」

包みを懐に仕舞おうとして、緒川は手を止める。

翼が言わんとする事を察すると、緒川は包みを丁寧に開き、中から小さな箱に詰められたボンボンショコラを一つ、指でつまんだ。

「いただきます」

一口サイズのショコラは、一瞬で指から口の中へと消えた。

「……美味しいです。ビターチョコと生クリームが、程よく口の中に広がりますね」
「よかった……。お菓子作りなんて、初めてでしたから……慎次さんに喜んでもらえて、嬉しいです」

口元を綻ばせて笑う緒川に、連られて翼も微笑む。

「それから慎次さん。実は、もう一つ頼みがあるのですが……」

声を潜める翼に、緒川は何かを察したように頷いた。

「今年も、ですね。分かっていますよ」

調理場として使われた食堂の冷蔵庫。その中にもう一人分、『お父様へ』と書かれたメッセージカードが貼られた紙袋が仕舞われている事を知るのは、一部の関係者のみである。



「そうか……。今年は手作りなのか」

そう言って男は緒川からその袋を受け取り、中の菓子を取り出す。

「翼が手作りのチョコを贈って来るなど、初めてだな。何か心境の変化でもあったのか?慎次、その辺りどうなんだ?」


[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ