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食後のワルツ
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 ざくざくざく。
 比較的しっとりした商品が多い日本のクッキーにはない、軽やかな音がする。これはクッキーというよりビスケットだと、海外からの輸入商品である菓子のパッケージを手に取れば、何てことはなくそう明示してあった。気付かなかったことを棚に上げ、なんだ、と一人肩透かしを食らう。
 ぼろぼろと噛んだ傍から零れる破片をそのままに、わたしはまさに"貪って"いた。食感だけでなく挟まれたココアクリームとのバランスも、チョコクリームほど甘すぎず絶妙なそれはどこか添加物のような味わいでクセになりそうだ。これで個別包装だったら日持ちの面でも安心できて完璧だったと思う。逆に言えば、だからこそ低コストで販売できるのだろうし、こういう外装を剥がしたら中身がすぐ見えるというところが海外産らしく感じて好きなのだけれど。

「よぉマスタ、――お前さんなあ」

 電子的な音を立てたマイルームのドアから見慣れた男が入ってきた。こちらを視界に入れた途端にみるみる呆れ顔へと変わってゆく様を眺めつつ、肩辺りにあげられた手を真似して振り返す。

ん、ふっふー( あ    や っ ほ ー)

 真顔のまま、ただただお菓子を頬張っているわたしの姿は恐らくシュールに映るだろうが、今はこのビスケットを満足するまで味わうことが最優先事項なのだ。これが他のサーヴァントだったなら、食べるのを止めるところを敢えてそうしない理由は彼だから、である。何せ、表情はそのままに入室したかと思えばおもむろに対面を陣取るくらいだ、問題なかろう。しかしあくまで一方的な決め付けには変わりないので、断りなくビスケットサンドを一枚抜き取って食べ始めようが、まあ許してあげようじゃないか。

「……のどかわいた」
「飲み物なしでよくこんだけ食えたな」

 食べたかったんだから仕方がないじゃないか。じ、と赤い瞳を見つめて無言の抗議をしつつ残り少なくなったビスケットへ再び右手を伸ばす。やや細まった虹彩が心なしか責めているような色合いに思えたが知ったことではない。何人たりとも、わたしを止めることはできないのだから。

 ざくり。

 顎に力を入れればあっさりと生地が砕けてどこか心地いい。ああ、もうすぐなくなってしまう。キッチンの誰かに頼めば同じものを作れたりしないだろうか。名残惜しく感じるも咀嚼する速度は落とさないので、ココアクリームと共に口内で溶けてゆく。

「……ちぃとばかし待ってな」

 この間ずっと視線を交わしたままだった彼が立ち上がった。

「ん、」

 顔を動かさずに目だけで追うことを早々に諦めれば、お湯が沸き、水が揺れる音が聞こえてくる。まさか、わたしが催促したとでも思われてしまった? そんなつもりは全くなかったのだけれど。考えている内に、ふわりと紅茶の香りが届く。
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