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呉志英雄伝
第十話〜代償〜
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を悔いていた。
頭のどこかに、劉表から仕掛けてくるという可能性を否定する考えがあったことを。
先手を打つのは自分たちだと信じて疑わなかったことを。
降り注ぐ矢の雨に味方が次々と命を散らせる中、桃蓮は悠長にもそんなことを考えていた。


それは油断に他ならなかった。











トスッ










軽い音がした。
少なくない衝撃を感じた。
現実に無理やり意識を引き戻された桃蓮は自分の腰に目を遣る。








「………抜かったか」









そこには一本の矢が深々と突き刺さっていた。
激痛が襲う中、彼女の意識ははっきりとしていた。しかしそれは意識だけであり、体が言うことを聞くということとはまた別問題。
グラリと彼女の体は傾き、落馬の様相を呈する。
筋を傷つけたのか、それとも痛みにより麻痺したのか、あるいは毒を仕込まれていたのか。答えは定かではないが、下半身が言うことを聞かない。











「桃蓮様!」



体が重力に逆らえず、落下しそうになったところで、桃蓮の名を呼び、その体を支える者があらわれた。


「ッ…江、か」


流れ出る血により、白い顔になりつつある桃蓮は、自らを支える者に声をかける。
そして自嘲気味に言った。


「これは、抜かった、わ。…完全に、してやられた。自分の、甘さ故よ」


痛みに堪えて、桃蓮は言葉を紡ぐ。
そんな桃蓮を江は叱咤する。


「自分を省みることなど、あとで幾らでもできます!今はただこの場を生き抜くことをお考えください!」

「ほ、報告!」


その時、後方の兵が全速力で寄ってきた。
江は無言のまま、その兵に先を促す。


「軍後方にて黄祖将軍が造反!それに伴い三千の兵が寝返り、軍勢は背後から追撃を受けております!」

「なっ!クッ…」

「桃蓮様、落ち着いてください」


江はそう諭すように言う。桃蓮を支えるために速度を落としていた江たちを、背後から攻撃を受けている兵たちは次々に追い越していく。
そうした中で、寝返った黄祖相手に殿を務めていた思春とその手勢がようやく追いつく。


「桃蓮様!ご無事ですか!?」


慌てて駆け寄る思春に、桃蓮は首肯を以て応える。
最早声をあげる余裕もなくなっていた。そして思春の後方には既に黄祖の軍勢が迫っている。
と、ようやく右手に崖、左手に白河という地形の出口が見えてきた。




「出口が見えました!全員全速力で駆け抜けてください!」


江の言葉に従って、殿を務めていた軍勢は一気に、この不利な地形を駆け抜ける
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