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湖の夜(1)
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迫観念にも似た思いでアスナを抱きよせる。それはアスナも同じようだった。釣り竿を握る俺の手に手を添え、包むように握る。抱き合える奇跡を、俺もアスナもかみしめていた。
 想いにに押されるように、気がついたら口を開いていた。

「アスナ……キスしたい」
「……わたしも」

 しばらく無言で見つめ合った後、アスナが目を閉じて、桜色の唇をすぼめた。
 わずかに突き出される水蜜桃の唇に、唇でふれる。触れたそこはきっと体のどこよりも柔らかい。

「ん――んっ……」

 アスナが可愛らしく鳴いた。
 生理現象を再現しないアバターの吐息はただのボイスエフェクトでしかない。
 しかし――、その吐息の中には間違いなく安堵が含まれていた。そのまま体温を交わす心地よさに酔う。
 かなり長い間、唇をかわしつづけ、名残惜しくも俺たちはお互い顔を遠ざけた。
 アスナの瞼が震えながら持ち上がった。ぱっちりと開いたアクアブルーの瞳には涙の膜がたゆたう。おそらく俺の目も同じように涙がたまっていることだろう。さっきから視界がゆがんでいる。
 もっと彼女の体温がほしくなる。求めてしまう。

「アスナ……」

 きっと声はからからに枯れていたように思う。
 両手で彼女をだきしめるべく、俺は左手に持った釣竿を放り出そうとして――

 がっくーん!

 放り出そうとした釣竿に腕を引かれた。

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