第3話
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様子を見て俺は話は終わりと言わんばかりに踵を返そうと──
「あの、今日泊まる場所が無いんだったら、私の家に来ませんか?」
「・・・・・・え?」
出来なかった。
それどころか、この世界に来てから初めて俺は素っ頓狂な声を漏らした。彼女が何を言ったのかを、自分の中で何度も咀嚼するように呟き、ようやく少女の言った言葉を理解する。
「ご、ゴメンなさい、私困ってる人を見るとついお節介を焼いちゃうもんで・・・・・・」
少女はあたふたと、自分の発言を思い返してか顔を僅かに紅くして謝ってくる。その少女の様子から善意で申し出てくれたのを悟った俺は、今後の予定や安全を考慮した上で・・・・・・
「あの、君が良ければ今日ご厄介してもいいかな?」
「っ!・・・・・・うん、勿論!」
彼女の大袈裟にも見える反応が、何故だか泣きたくなるくらい懐かしく、新鮮で。俺は思わず笑みが零れた。彼女もそんな俺の顔を見て、また笑顔を零す。と、少女は何か思い出したように、言葉を述べる。
「そう言えば、まだ名前を言ってなかったですね。 私は琴音って言います。 お琴の琴に、音って書いて琴音です」
美しい名前だと思った。だけどそれだけじゃない。なにか、特別な感情が湧いてくる。例えるなら、見知ってる誰かと再会した、そんな感覚が。不意に彼女へと意識を向けると、不思議そうな顔でこちらを見てたので俺は慌てて会話へと戻る。
「あ、ああ。琴音、さんね」
「いいよ敬語は。普通に呼び捨てで読んで?」
「じゃあ、琴音」
「ん、宜しい。それじゃあ次はあなたの番!」
「と、言うと?」
「だーかーら! 君の名前だってば! 私だけ自己紹介しといて、君は名乗らないなんて不公平じゃん」
「俺の・・・・・・名前」
琴音との会話で、俺はどうしようかと言葉に詰まる。今の俺に憶えている記憶はライダーの記憶が殆どで、それ以外の事は擦り切れてしまったかのように思い出せない。
それでも懸命に必死に消えかかっている俺自身の記憶を探り──自身の名前を口にする。
「アラタ。それが俺の名前」
その言葉を呟いた時の俺の濁っていた目は、少しだけ澄んでいる気がした。
ーーー
「どうぞ! 広くは無いから期待しないでね」
「いえ、泊まらせて貰えるだけでも有難いから。…………お邪魔、します」
琴音の家に着いたのは、夕日も沈みかけた頃であった。案内された家は、思ったよりも少し大きかった。彼女に先導されるがまま、俺は琴音さんの家の中へと入る。部屋へと入ると、1人で暮らしているにはやや広く、隅々まで掃除が行き届いており、綺麗に整頓されている。壁に遺っている銃痕さえなければ、至って普通の女の子の部屋だった。
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