第十一幕その十一
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「長野県はその中で一番温泉が多いね」
「奈良や和歌山よりもね」
「近畿は思ったより少ない?」
「あるにはあるけれどね」
「有馬とか城崎に」
「名所は結構あっても数では長野県かな」
温泉のそれはというのです。
「やっぱりね」
「そうかも知れないね」
「実際先生こっちに来て毎日温泉だし」
「温泉尽くしって言っていい位だし」
「それじゃあね」
「先生もね」
「温泉尽くしになってるね」
実際にと答えた先生でした。
「そこはね、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと」
「いや、長野県の温泉はそれぞれね」
まさにと言った先生でした。
「違うね」
「うん、それぞれの持ち味があるよね」
「本当にね」
「そこは違うわね」
「温泉は温泉でも」
「それでもね」
「そう、その違いがまた面白いね」
また言った先生でした、そうしてです。
そうしたお話をしてでした、先生は湯舟を心から楽しんで身体も心もすっきりさせてでした。それからまたお酒を飲みますが。
ふとです、先生は長野の山の幸である猪の鍋を食べつつしみじみと思いました。
「この長野県の幸ともね」
「これでだよね」
「お別れだよね」
「この日でね」
「そして明日は」
「神戸に向けて出発するから」
「食べ収めだね」
皆もこう言って寂しく思いました、ですが。
ここで、です。こうも言った先生でした。
「明日神戸に戻る前に」
「何かな」
「何かあるの?」
「先生としては」
「どうなの?」
「お蕎麦を食べたいね」
こちらをというのです。
「それと林檎をね」
「明日は」
「その二つを食べて」
「そしてだね」
「長野県を後にしたい」
「先生としては」
「そうも考えているけれどどうかな」
今は猪鍋、つまり牡丹鍋を食べつつ言うのでした、豚肉に似た味ですがもっと固くて匂いもきつめですがそれがまたいいです。
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