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温泉ゴリラ
第一章

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                温泉ゴリラ
 今温泉の中にゴリラがいて実に気持ちよさそうに温泉の湯を楽しんでいる、白銀慎はこの事態に共にいる伊東崚汰に言った。
「猿は風呂に入るな」
「ニホンザルはな」
 伊東は白銀にすぐに答えた、二人共ゴリラがいる湯に一緒に入っている、他の客達もゴリラに注目している。
「入るな」
「ゴリラも入るのか」
「同じ猿の仲間だから入るんだろうな」
「そうか、熱帯の生きものでもか」
「奇麗好きだっていうしな」
「それでか」
「ああ、しかもゴリラは顔は怖いけれどな」
 それでもとだ、伊東は白銀にさらに話した。
「知ってるな、大人しんだよ」
「森の賢人って言われてるな」
 白銀もこう返した。
「完全なベジタリアンで非暴力主義でな」
「ガンジーさんみたいな生きものなんだ」
「そんな立派な生きものだからな」
「別に怖くないからな」
「襲われる心配はないな」
「むしろニホンザルの方が怖いからな」
 温泉で入ることで知られているこの生きものの方がというのだ。
「だからな」
「安心していいか」
「全くな」
「そうか、何かバナナ食べだしてるけれどな」
 見ればゴリラは湯舟の中で何処からか出したバナナを実に美味そうに食べだした。
「いいか」
「人を襲って喰ってないだろ」
「ゴリラはそれはしないよな」
「ベジタリアンだからな」
 それも完全なだ。
「動物性蛋白質は摂らないんだよ」
「じゃあ安心か、しかしゴリラがいるだけで空気がな」
 白銀は今度はそちらの話をした。
「温泉の中のそれが全く違うな」
「それはな、ニホンザルでしかないからな」
「皆かなり引いてるな」
「何で温泉にいるのかってな」
「お前はそれ何も思わないのか」
「思うさ、けれど安全だからな」
 それでとだ、伊東は落ち着いたまま白銀に話した。
「そこは安心しているさ」
「そうなんだな」
「危害がないならいいだろ」
「そんなものか?」
「ニホンザルよりずっと安心だからな、凶暴でもないし悪戯もしないしな」
 伊東はこう言って実際に安心して湯舟に入っていた、ゴリラは湯舟の中で落ち着いてバナナを食べて他の果物も食べてだった。
 食べたものはきちんと岩場の上に集めて置いておいて湯舟から上がった、そしてすたすたと何処かへと去ったが。
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