第1章:出会い
第03話 『再起』
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「じゃあ、何で……」
リサの言葉に、洸夜一瞬黙り込んだ。
そして、ゆっくりと口を開く。
「『天才』と……『秀才』が……俺の側に居たからだよ……」
洸夜は、苦しそうにそう言った。
「バカみたいな話だが、俺はいつも前を進んでいた。横に並んで追い抜いていくのを見ると、凄く悲しくなったんだ……」
「だから、楽器を手放した……?」
無言で洸夜は頷いた。
「本当は、心の奥底では、1番じゃないと嫌だって言う思いがあったんだろうな。でも、俺はそれを表にも出せない臆病者」
そして、と洸夜は続けた。
「気がついたら、俺は……家族に演奏している姿を見られたくない、って思い始めたんだ」
洸夜は後悔を含んだように言った。
「だから、あの時1人にして欲しいって……」
リサの言葉に、洸夜は頷いた。
すると、不意に友希那が口を開いた。
「あなたの言う通り、貴方は臆病者。そして、目の前のことに背を向け逃げ出した」
友希那は、洸夜に対して辛辣に言った。
「そう言うこと。いつも、何をやっても、あの2人から逃げ出したかったんだと思う」
「……紗夜は、洸夜と一緒に演奏したかっただけらしいよ」
「え……」
リサの突然の言葉に、洸夜は戸惑った。
「この前、紗夜から聞いたの。洸夜がどうしてあんな事をしたのか」
リサは淡々と続ける。
「その時、紗夜に洸夜とはどうしたいかって聞いたの。そしたら、『洸夜と一緒の舞台に立ちたい』って言ってた」
それを聞いた洸夜の洸夜の目からは、涙が溢れていた。
「……洸夜?」
リサが心配する傍ら、洸夜は両目を右手で覆った。
「……本当に俺ってバカだよな。こんなつまらないことで、自分にとって大切な妹達と喧嘩した挙句に……一方的に突き放したんだぜ……」
より一層自嘲した洸夜は、そのまま続ける。
「サイテーな人間だよ……。しかも……相手の思いも汲み取らずに……」
「それは、貴方が自分を自分として見ていないからじゃないの?」
「……どう言う……こと?」
洸夜は、友希那の言葉に首を傾げた。
「聞いてれば、貴方は一度も自分のやりたい音楽をできたようには思えない。それは、貴方が自分を自分として見ていない証拠じゃないのかしら?」
「……」
洸夜は、その言葉に返すことが出来なかったら。
彼女の言う通り、彼は今まで誰かの為に音楽を奏でていた。
自分の為に、と言ってやっていたヴァイオリンですら、そうではないのだろうかと思えてきた。
だからこそ、何も言葉を返せなかった。
「図星……みたいね」
そう言った友希那は、先程とは打って変わって心配するような口調だった。
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