第二章
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「まずはです」
「その様な巨大な堤は造れないが」
「左様ですね、ですが絶え間なく水が流れ込んでは」
「飲み干せないか」
「左様です」
「そうか、噂以上だな」
王は自分のその質問にすぐに答えたルクマーンに感心する顔で述べた。
「見事だ、ではな」
「それではですか」
「そなたのその知恵を使わせてもらおう」
こう言ってだった、王はルクマーンを自身の傍に置いて何かあると彼の知恵を借りていた。そうしてだった。
ある日王はルクマーンが言っていた最上の料理であり同時に最悪の料理である羊の心臓と舌の料理を己の食卓に並べた、そしてだった。
ルクマーンにだ、香辛料をふんだんに使って味付けをして煮たり焼いたりしたそうした料理の味を楽しみつつこんなことを言った。
「美味い、しかしだな」
「はい、その二つの料理はです」
ルクマーンは王に深い叡智を讃えた顔で答えた。
「美味くです」
「同時にだな」
「人に多くのものを教えてくれます」
「よい心と言葉は確かにな」
この二つはとだ、ダーヴド王も述べた。
「これ以上はないまでにだ」
「世にとって素晴らしいものですね」
「預言者達のそれはな」
「その通りです」
「しかしだ」
王はその心臓と舌の味を楽しんだ、どちらも確かに美味い。見事な質の肉であり実に食べがいがある。
「同時にな」
「悪しき心と言葉は」
「世にとって害悪だ」
「毒の様なものです」
「よき場合は花の様であるのに対してな」
「左様です、ですから」
「余はこのことを終生だな」
「覚えて国を治められれば」
そうすればというのだ。
「必ずやです」
「この国を見事に治められるな」
「そうなります」
「では今はこれからも時折この二つの料理を食べよう」
羊の心臓と舌の料理をというのだ。
「そうしよう」
「それでご自身のですね」
「戒めとしていこう」
こう言ってだった、王は料理の味を楽しみつつ己への戒めとした。ルクマーンが言ったその言葉は王の政の根幹となり彼に国をよく治めさせた。これはまさに最高の心臓と舌であった。
心臓と舌 完
2019・6・12
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