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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十六話 六芒郭攻略戦(二)
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歴史を変えた弾丸の一つであった。

 アラノックの死は〈帝国〉と〈皇国〉の命運を大きく揺り動かした。皮肉なことに政局に関わることを嫌った堅実で良識的な男の死は二つの国家を揺るがす数多の事件を引き起こす切欠となった。
 本領将校団は早急に集まり、最先任の少将であるラスティニアンを軍団長代理とする事を同意した。

 その会合の中で攻勢に向けた現状報告が上げられた。その中でとりわけ問題になったものに「若手将校達が公然とユーリアと側近のメレンティンを批判している」というものがあった。
 彼らの幾人かはカルパート僭帝乱で自分達の家がどれほどの痛手を追い、メレンティンが何故、東方辺境領に追いやられたのかを覚えていた。そして自分達の上官が迂回突破案を唱え多彩に、何故否決されたのかを理解できなかった。
 純粋な軍事的合理性は迂回突破案にあった。ましてや自分の同期が目の前で蛮地の泥濘と捏ね混ぜられたのであれば判断は歪められた、とより強く思うようになるのは自明の理であった。

 ラスティニアンは「公然と」上官を批判する事を厳禁した。陰で囁かれる噂はやがて廃油が紙に染み込むように兵下士官にも染み渡り始めるようになった。


 ゲルト・フォン・ラスティニアンは参謀としては優秀であり、人としては小心であり、そして自分達がまったく政局的な意味で窮地にあると決めつけていた。
 彼は陰険ではあるが意志が弱い人間ではない、 農奴より少しマシ、という程度の貧乏な没落貴族――彼の両親は療医にかかる金もなく貧困の中で死んだ――に産まれ、暗い物を抱えた人間が少将になるまでに必要な苦労を経験してきた。
 そして彼は弟と妹を無事に送り出し、流行り病で産まれたばかりの長男を失ってからは半ば妻の為に栄達を求めて生き、そして自分はもとより病弱であった妻もまもなく五十路に差し掛かる事を強く意識するようになっていた、全てがうまくいけばそれなりの恩賞を受け取って予備役に入り、妻と共に荘園を経営して生きていこうと思っていた。

 そして彼は将校としての生活の終わりを見据えていた。そして彼はちょっとした蛮族鎮定の栄誉を分かち合うために送り込まれた。
 帝室であるユーリアは本領中枢から憎まれた男を参謀長として側近に置き、要塞攻略に固執して迂回突破案を潰し、本領兵を使い潰し、アラノックは彼女の下から戻る際に何者かに暗殺された。
 繰り返すがラスティニアンは参謀としては優秀な男であり、小心な人間であった。彼は前日の準備通り、攻勢を進めながらもう一つの計画を入念に練り始めていた。

 ユーリアは正午まで第1軍団の哨戒網視察にでていた。

 かくして二日目の戦闘が始まった





 そしてこれはまったくの余談であるが新城直衛はアラノックの死の経緯を知った際に”盛大な出費を
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