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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十六話 六芒郭攻略戦(二)
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が雨嵐と降り注ぎ、眼前の友軍の陣地はただの土塊のごとく抉り、崩されているように見える。これほどの火力集中は夏川がこの二ヶ月程で学習した”通常”をはるかに上回る規模だ。
 その証拠に炸裂すると厳つい顔をした下士官共も、安全は砲塁の中にいるはずなのに夏川と同じように身を竦ませている。それでも夏川の居場所を気遣い、さりげなく地下弾薬庫へ退避できるように誘導しているのは夏川が慕われてる証である。
 一刻をかけてゆっくりと徐々に中央へと砲火が進み――途絶えた

 意識を集中させた導術兵が耳鳴りに負けぬように叫ぶ。
「砲術指揮本部より各部隊応射開始!
南突角堡支援指定部隊は南突角堡の攻勢に合わせ攻撃せよ!」
 夏川は頷いて様子を伺う。異常なほどの火力を浴びせられた南突角堡はただの土塊にしかみえない。
 その土塊の正体を知っていても夏川はもはやあそこに生者はいるのであろうか、と不安を覚えてしまう。
 そして今度は自分たちに向けて先程の暴力が襲い掛かってきた。練石と鉄骨と木材で徹底的に強化された砲塁は攻城砲の猛攻に耐え続けた。
 そして南突角堡は噴火をしたかのような猛反撃を開始する――耳鳴りが酷く何も聞こえなかった――夏川は鋭剣を掲げ、振り下ろした。
 下士官も兵共もその身振りに応じて動き出す。
「撃て!撃て!」
 着弾する攻城弾の轟音により、夏川には聞こえないが同じ言葉が銃廊にも響き渡る。露天砲座のほぼ半数でも同じ言葉が響いていることが証明された。南東突角堡は猛撃を開始した。目標は傾斜路の”根本”を中心としていた。

 傾斜路に殺到していた白衣の軍勢は目に見える程にその勢いを弱めている。

「いいぞ!撃ち続けろ!!」「中尉殿、報告します!弾薬残量半数!」
「伍長、指揮本部への伝達は任せる! 砲撃の手は緩めるな!弾薬は気にするな!」

 この日、長門大尉は新城直衛の期待に十全に答えた事を証明した。
 彼が掌握した主攻正面である南突角堡を除く五つの突角堡の指揮系統は見事に改善された。
 秀英である長門大尉の手腕であり、同時に彼の求め苦しい懐の中でも可能な限り答えた新城直衛の功績であった。

 夏川中尉は果敢であった。彼らの組み立てた装置の歯車としての機能を果たそうと限界寸前まで努力していた。
 その装置が殺戮装置である事に疑問を抱く暇がないのは恐らく幸福なことであろう。この地獄の一瞬を切り取り、幸福と呼ぶべきものを探すのであれば。



同日午前第十一刻 南突角堡 掩体壕
六芒郭要塞兵站部糧食班、戦闘配食担当第三席当番将校補 丸枝敬一郎中尉


 一方そのころ、準備砲撃の真っ最中にのそのそと攻城弾が降り注ぐ中、掩体壕に入り込んだ男たちがいた。
 主攻正面となる南突角堡は地獄の入り口といった有様である。運が悪い
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