キスしていいってこと?
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「そこのところどうなの?」
「あー……悩みどこだな」
彼と会話するときは、ちょっとだけ気を遣う。本当に雑談をしてもいいのだろうけど、せめて何も考えていないマスターだと思われたくない、そんなちっぽけなプライドが表に出てしまうのだ。今も戦闘時に付ける礼装の良し悪しを聞いているところである。これは半分くらい本当に気懸かりな内容だから、全てが出任せではない。
わたしからの問いを真面目に考えてくれているらしく、真顔ゆえに美しくも恐ろしい貌を横から見上げる。天井のライトに透ける彼の髪が輝いて綺麗だ――あれ?
「……どうした」
わたしの様子が変わったことに気付いた彼が器用に片眉だけを上げて問いかけてくるが、さっき一瞬だけ見えたものを知りたくて生返事になってしまう。もう少し近付けば分かるだろうか? 向かい合うよう回り込んで、ほぼ無意識のまま一歩分の距離を詰めた。じっと見つめてみるものの、あのキラキラした瞬きはない。見間違いではなかったはずだと首を捻ったところで、我に返った。
いつの間にか彼の瞳は瞼の下に隠されていて、心なしか互いの顔が近くなっているような――ここでもう一歩、わたしが前に出て背伸びをしたら。
「……お前さんからしてくれるもんだと、待ってたんだが?」
「っ、しな」
思わず息を呑んだわたしに、彼がわざとらしく声を潜めて囁く。ぶわ、と頬に熱が溜まるのを誤魔化したくて否定の言葉を紡ごうと視線を――ああ、だめだ。煌めく光を周囲に散らした赤が、楽しげに細まったそれが余りに澄んでいて。わたしが反射的に身を固くした瞬間にはもう、彼に捕まっていた。
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